468 隠し事がまだあるの?
改めて言われると首を傾げてしまう。
好きか嫌いか問われれば、好きだろうとは思う。しかし、神父様が持つような強い感情を持っているかと問われれば、さてどうだろう?
ん?もしかしてこういうところが、神父様から見れば、子供扱いしているように見えた?
今の自分の行動を考えてみるけど、大体はルディのご機嫌取りだ。
拗ねると面倒だし。
他人に対して、距離を置いていたルディをなんとかしようとは思って、色々していた。
だいぶん改善されたところで、天神に初期設定に戻されてしまったけど。
そう言えば、ルディと私が互いに認識していなかったとき。私に偉そうに忠告してきた、聖騎士のお偉いさんという感じだった。
今思えば、部隊長としては普通だった。
そう言えばファルが言っていたよね。今までは普通だったと……これが、私が悪いってことになるの?
「ということは、ルディを構いすぎた私が駄目だったと?」
いや、いつの時点だからか不明なほど、ルディは幼児の私に構ってくるようになった。
何が悪かったと言うより、初めから?
「ファル様ー!」
私は第十三部隊の隊章をまとう鎧が食堂に入ってきたので、逃さないと言わんばかりに駆けて行き腕を掴んだ。
「うぉ!なんだ?」
「私が来るまでルディは普通だった?」
「あ?なんの話だ?」
「ファル様は言っていたよね。私が聖騎士団に来るまで、ルディは普通だったって!」
「ああ、それか。元に戻ったと言った方がいいか?」
そうじゃなくて、私に構わなければルディは隊長として普通だったのかということ。
しかし、元に戻ったということは、教会にいた頃と同じっていうこと。
そのことで思い出されるのは、私の後についてくるルディ。私を強制連行するルディ。私を部屋に連れ去るルディ。
……何も変わっていない!それよりも悪化している!
この状況を再認識させられて頭を抱えた。
私はそんなことは思って、ルディに手を伸ばしていない。頑張っている子供に、偉いね凄いねって褒めてあげただけに過ぎない。
いや、思いっきり子供扱いしてしまっているけど。
「おい、大丈夫か?シュレインもなんだか機嫌が悪そうだが?王妃になるって決めたクセにごちゃごちゃ言い出すからだろう?」
「神父様にも怒られた。でも、契約、契約契約。もう雁字搦めなのわかる?」
私はファルに訴えるように言う。この私にかかる契約の鎖。自由などない縛り。
「今更言うのか?それ半年前に言えよ」
確かにそうだと思う。でも、そのときは……
「こんなことになると思っていなかった。なに?満足においしいものが食べれない状況!ベッドも狭くてゆっくり寝れないって!」
「それかよ!おい!ロベル。せーじょ様が甘いもの切れたってよ。なんか、甘いものないか?」
私はそんな単純じゃない!それにファルから聖女様って言われるとムカつく。
すると、すっと横から出される焼き菓子。もしかして、用意されていた?
「どうぞ」
お皿に乗せられた焼き菓子を掴んで食べる。うむ。『レメリーゼ』ほどじゃないけど、おいしい。
「はぁ。シュレイン。これはお前が大事なことを、アンジュに言っていないからだろう」
え?まだ重大なことを隠しているわけ?
そして、私の頭をポンポン叩かないで欲しい。
もぐもぐしている私をルディの方に連れて行くファル。
「自分で作るぐらいなのだから、美味いものを食わせておけば、アンジュはおとなしいだろう」
「もぐもぐ。ごっくん。ファル様酷い」
これでは、私が食いしん坊だと言っているようなものじゃない。酷い。
「アンジュは食っておけ」
焼き菓子を口の中に押し込められる。
美味しいから別にいいけど……。
「いいか。さっきの話も、お前が契約の話を持ち出して、陛下がお前のためにアンジュを説得したんだろう?」
ファル的にはさっきの話のルディの態度は不服だったようだ。王様大好きファルとしてはだ。
「陛下に言ったときのように、アンジュを説得しろって言っているんだよ」
私はファルに背中を押されて、再びルディの前に出てしまった。とてつもなく機嫌が悪い魔王様の前にだ。
しかし説得?私を?っていうか王様に何を言ったわけ?
「もぐもぐ……契約以外の言葉なら聞く。もぐもぐ」
「人の話を聞く態度ではないですよ。アンジュ」
「神父様。糖分は大切。考えごとをするときには甘いものが一番」
そして機嫌の悪い魔王様を見上げた。
「ルディ。私が悪かった。今思えば、三歳児がとる行動ではなかったと思っている。それがルディに悪影響を与えたのは事実。やはり、貴族と関わりを持つべきではなかったと思っている」
「っ……ちがう」
「違わない。私は普通じゃないのは自覚していた。それを神父様は見抜いていた」
いくら子供のフリをしていようが、違和感がなくなることはなかった。それは周りに影響を与えたとは思っている。
ロゼが言っていた。部屋ごとに教育が違っていたと。私と同じ部屋の子供の教育は、他の部屋と違っていたと。
それがロゼやリザ姉に影響を与えてしまった。それが良かったのか悪かったのかは、私にはわからない。
だけど、二人が生きてこの場にいるという事実は、彼女たちがこの場にいる選択をすることができたのだと、私は思いたい。
だって、第十一部隊長が言ったように、貴族に隷属することでしか、生きることができないのだから。
「だから、全ての契約を白紙に……うぐっ」
何故にファルからまたしても、焼き菓子を突っ込まれたのだろう?
ここは私が悪かったと、謝るところなんだよね?
「シュレイン!アンジュが食っている間にさっさと言え!はっきり言ってアンジュは誰も必要としていない。それは昔からだ。一人どこか遠くを見ている奴だ……そして一人で何処かに消える存在だ」




