467 子供扱いなんてしてないよ?
「アンジュ。それは契約の報酬が、示されていないということですか?」
私が言いたいことをわかっているのに、報酬がどうとか言ってきた神父様。
報酬とか言うと、私は美味しいもの食べ歩きの旅とかいい出すよ。
「まぁ、報酬も示されていなかったね。王様には、王家を自由にしていい権利を示されたけど」
それは私にとって報酬でもなんでもなく、ただ厄介なものを押し付けられただけにすぎない。
「そういうことは、後でシュレインにアンジュが好きな金額でも提示しておきなさい」
「神父様。自由がなければ、そのお金を使うことができないのだけど?」
今がそうだ。お給料がはいったからと言って、北地区の商店街にも行けないし、買い物に行くにも、聖騎士団の敷地から外に出られない。
ぶっ飛んで転移の腕輪が発動してから、一応距離には気を付けている。
「そういうのも、シュレインと話をつけなさい。それでは、各自鎧を持っていって、身につけてきてください。因みにアンジュの分はありません」
「鎧はなくていいよ」
「そう言うと思っていましたよ。中身だけが無くなっていたとかありそうですからね。アンジュの分はありません」
神父様はよくわかっているね。中身が空の鎧だけが、私に扮しているかもしれないと。
ある得ることだから、否定はしないよ。
しかし背景が歪んでいる魔王様と話ができるとは思えない。
「1時間後に集合です。それから、アンジュとシュレインはここに残りなさい」
私と魔王様は、微笑みを浮かべる悪魔神父に居残りを命じられてしまった。
「こういうときに、面倒なことを言い出してはいけませんよ」
私が怒られている。何故に。
確かに今から戦いに行くぜというときに、いざこざを持ち出したと言われれば、それまでだ。
でも、私が逃げる逃げないという話をするルディが悪いのだ。それを言うなら、契約という鎖で縛ったくせに、と言い返したくなる。
「それからシュレイン。アンジュを縛りすぎても駄目だと、アレほど忠告など、しましたよね。アンジュが反発することなど目に見えていたことです」
「しかし……」
「シュレイン。アンジュは縛り付けると反発しますが、リザネイエには絶対の信頼を寄せています。何故かわかりますか?」
絶対の信頼というか。リザ姉は私を裏切ることはないだろうと思っているだけだよ。
それはリザ姉の立場であり、求めているものが、私と対立しないだけ。
「そもそもリザネイエ第十二副部隊長が敵対する意味がない」
「そうとは言えないですよ。リザネイエにも打算はあるでしょう。はぁ……」
神父様が何故か大きなため息を吐き出した。私の方がため息を吐きたい。
そして顔を上げた表情はいつもと違って、何も感情がない目で私とルディを見てきた。
「図体だけでかくなっても、ガキのままとは情けない。そもそもアンジュ。あなたが甘やかしすぎた所為でもあるのです」
「いやいやいや。それは絶対にないよ」
ルディを甘やかし過ぎとか、意味不明なことを真顔で言わないで欲しい。
「そうですか?何れは王として立たなければならない故、理不尽なことにも、私は手を差し伸ばすことはありませんでしたのに、猫可愛がりしたのは誰です?」
「は?あの時の状況は、どう見てもイジメだったじゃない!大人の神父様が手を差し出すところだったじゃない」
何故か論点が、十三年前の話になっている。
子供のルディが頼れるのは、叔父である神父様だけだったはず。
聖女の母親と第一王子のままだった父親は目の前で死に、血につなかった兄は幼いながらも王となって、頼ることができない。
だったらルディに手を差しだすべきは、神父様でなければならかった。
「それはシュレインの為にはなりません」
「ガキは成人するまでは、大人が守るべきだよね!」
「では、子供だったアンジュは関わるべきではなかったということです」
「は?誰も助けてあげないから、私が大人が与えるべき言葉を、ルディに与えたんだよ!責任転嫁しないでほしいね!」
「……このアンジュの言葉を聞いて、答えが見つかりましたか?シュレイン」
え?どこに話を落とすつもり?
今のは十三年前のことを言っただけで、神父様の質問とは全く関係がない話だ。
「……俺がアンジュに甘えていると?」
「そうですよ。アンジュの年齢と行動のちぐはぐさの話はしたはずです」
ははははは。前世を足しても神父様より若いよ。
それから私をおかしい人扱いはしないでよ。
「それにアンジュが、いつまでもシュレインを子供扱いしているから、こう捻れるのです」
……え?子供扱いなんてしていないよ?
私はそれはないと、首を横に振って否定する。
どちらかといえば、私の方がモノ扱いされている気がする。
「アンジュ。では、シュレインを異性としてどう思いますか?」
どうと言われてもね。




