465 天の岩戸かな?
「流石、茨木!ヘビ共の言葉が理解できなくて、困っていたんだよ」
色々この世界のことも知識として蓄えようとしている茨木だ。300歩が1里という謎の換算もこの世界の仕様に変換してくれた。
そもそも300歩って曖昧すぎない?
そして陸に打ち上げられた魚のように、水たまりの中で痙攣しているヘビ共。
いや、君たちに頼った私が悪かったんだよ。
さて、私は打ち付ける雨を降らす何かを見るように目を細めるもののやはり、目に見えるようなものではないらしい。
水であれば土剋水が有効なのだろうけど、近くに人が住む町や村があれば大変なことになるので、土は駄目だ。
ということは……
天に向って右手を掲げる。そして物を掴むように握り込んだ。
そこから絡みつく茨の弓を作りす。
「天泣の止まぬ雨を切り裂く矢。力の根源に向かい絡め取ろう」
強靭な魔力の弦に、細い茨が絡み合った矢を番える。
「それは茨姫のように城を囲み、一切の出入りを禁ず。『茨の監獄』」
そして茨の矢を打ち放った。
100キロメル。だいたい前世の知識からいくと東京から富士山まで。
その距離を雨の力の根源を辿って飛ばす。
シレッと同じ属性の青嵐の鱗を鏃にして撃ったから、力を追ってくれるはず。
さて、あの矢は物理的に飛んでいったので、結果が出るには時間がかかるだろう。
お昼前に出発すると言っていたんだっけ?
その頃には何かしらの変化がでていることを祈っておこう。
「さて、中に入ろう」
「もう、いいのか?」
背後霊のように着いてきていたルディが聞いてきた。
「あとは結果待ちだね」
「アマテラスは、またおもしれぇことでも考えついたのか?」
別に面白いことでもないよ。
しかしその熊並みにデカいウサギはどうするのだろう?
この嵐の中、解体する気なのだろうか。
「酒吞。別に面白いことでもないよ。まぁ天の岩戸かな?岩戸の中にでも引っ込んでくれたら、この雨も止むかなっていう推測?」
「なんだ?宴でもするのか?」
嬉しそうに言わないで欲しい。今回は引っ張り出すのではなくて、押し込めるほうなんだって!
「ちがう。ちがう。まぁ、怪神というものに、住処から出ないようにしたって感じかな?上手く行けばの話しだけどね」
流石に富士山までの距離を正確に測って魔術を発動させるのは、博打みたいなもの。失敗すれば、雨の根源の力がない場所に矢が落ちても、術が発動しない条件にはした。
失敗しても大丈夫!
そう説明して私は建物の中に入っていったのだった。
「準備が整ったので転移を発動させようかと思っていたのですが……」
出発前に腹ごしらえのため食堂に私達を呼びつけた神父様が、何故かジト目で私のことを見てきた。
なに?私もジト目で見返してもいいかな?
何故に神父様の背後に、聖騎士の鎧がいくつもあるのかなぁ?
それも一つ真っ黒な鎧があるから、あれはルディ用だよね?
「雨が止んだ理由を説明しなさい。アンジュ」
「なんでも私の所為にするのはいけないと思う」
私はシレッと言葉を返す。
私が何かをしたと決めつけるのはよくない。
雨が止んだのはきっと魔術が上手く発動したと思うのだけど、他の人の意見を聞かずに私だと決めつけて問題児扱いしないで欲しい。
「そうですか?早朝から聖痕を使って何かをしていましたよね?」
バレバレだった。別に隠そうとはしていなかったけど、私が外に出て矢を放ったのをみられていたってこと?
それも聖痕を使ったのまでバレている。
「細かいことは気にしちゃ駄目だよ神父様」
「集団行動を取っている意味を理解しているのですかと問いたいですね?勝手な行動は、今後の作戦の変更を余儀なくすることではないのですか?」
え?私は作戦なんてこれっぽっちも聞いていないよ?
私を抱えて座っているルディを仰ぎ見る。
「作戦って聞いていないけど」
「物の例えの話だろう?現時点で作戦なんてありはしない」
はっ!神父様に騙された!
「私がいいたいのは、アンジュの影響力が大きいということです。雨を止ますことができるのなら、危険な転移を使わなくて良いことになりますよね」
「うーん?それは結果論であって成功するかどうかは別だったからだね。でも転移を使えれば便利!」
すると大きなため息が聞こえてきた。だって、成功するかは分からなかったもの。
「あの雨を止ませるって何をしたのか、逆に怖くて聞けないけど」
「晴れているなら、無理をして転移を使いたくないわね。昨日の感じだと安定していなさそうだったわ」
リザ姉の言葉に残念感が広がる。
昨日の実験は失敗だったの?そう言えば私はまだ、転移の術の結果を聞いていなかった。
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