458 転移の鍵は『ソレ』だ!
「そもそもワイバーンは美味しそうとしか思わないし、ワイバーンの生態は集団行動して繁殖するぐらいしか習っていない」
ワイバーンは繁殖のときに人の町を襲う、だから春の時期は要注意ということしか習っていない。
だから、魔素云々の話なんて習っていない。
「魔素がないとワイバーンは飛べません。なので消費した魔素が補給されないダンジョンのような結界は張れません。ですから、このような嵐の場合は結界は無効となります」
これは神父様云々というよりもワイバーンの特性に合わせた結界のために、進めなかったということだ。
ダンジョンのときのように私の重力の聖痕で移動してもいいけど、物体が大きいと私の負荷も増えて長距離だと保たない可能性がある。
そこに、甲高い音がロゼの方から響いてきた。
「なんですか?今、取り込み中なのですけど?」
『カニの首ってどこだ!』
どうやら第十二部隊は、バルドール地方にいるカニの異形と戦っているところらしい。
それは私も思ったよ。カニに首があるのかと。
『あとデカすぎて全体像がまったくわからないのだが?』
「ギルフォード副部隊長。今取り込み中と言いました」
『将校ロゼ。その辺りにアンジュはいないのか!』
え?居留守つかっていいのかな?私もカニに首があるのかなんて知らないよ。
しかし、この前ロゼが文句を言っていたよね。天神のところで通信を受けていたら、もうちょっとで死にかけていたと。
ん?あの天神が創り出した別空間でも神父様が作った通信機は通じていた。
「それだ!」
『おい!いるじゃないかアンジュ!』
「茨木、カニの鬼の情報を話してあげて!」
私は面倒なので茨木にふった。こうゆうのは茨木に任せたほうがいい。何かと情報を持っているからね。
「大嶽丸のことですか?」
「ごめん名前までは知らないよ」
「額を撃ち抜けばいいですよ」
首が弱点なのに、額を撃ち抜くだけでいいの?
「ということだからギル頑張って!」
『ちょっと待て!だからデカすぎて頭が何処かわからないんだよ!あと、硬くて攻撃が入らないんだが』
えー?弱点を教えたのに文句を言われるの?デカいのなら、広いところに誘導して全貌がわかるようにすればいいじゃない。硬いのは、攻撃力の問題だよね。
「ギルフォード。それぐらい自分たちでどうにかしなさい」
『はっ!リュミエール神父!了解です!ブッ』
神父様が答えると、声を翻しながら慌ててギルは通信を切った。神父様の影響力が半端ないことがわかる。
「それでアンジュ。何が『それだ』なのですか?」
「それ!」
ロゼが首元にしまおうとしている銀色の聖騎士のタグを指しながら言った。
「聖騎士の身分証ですか?」
「そう、あの天神の作った異空間でも通信できていたのなら、第十一部隊の人が持つそれを印として転移できるはず」
ようは私がつけられている腕輪と同じだ。印があるならそれを目指して転移すればいい。
通信という魔力の糸を伝えば、腕輪の転移と同じ要領でいけるはず。
「しかし、この人数で飛べますか?転移陣は人数制限がありますよ」
うーん?私は実際の転移陣を見たことがないから、なんとも言えないんだよね。それに大人数で施行しないと駄目って言っていたよね。
人数制限があるのは、それ以上は移動できなかったと考えられる。その理由としては人を運ぶだけの力が足りなかったと考えられるし、陣の大きさから出るような人数は運べないとも考えられる。
あとは、誰かがそうだと決めたかだ。
転移の上限を決めた理由は、大軍を転移で送らないためと考えられる。
さて、どれが正解かはわからないけど。
「さっきも言ったけど、空間の隔離と空間の干渉で、空間の安定性を上げることはできる。そこで転移を行えば、術の瓦解はおこらない。これは通信機の魔力の糸を伝い転移を行っていく。理論上は問題ない……はず」
「相変わらず、めちゃくちゃなことを言っているとわかっているのか?」
「ファル様、別に時間に余裕があるなら、この嵐が収まるまで待てばいいのだよ」
私は、青い空が上空には広がっているのに、叩きつける風と雨の暴風の景色を、ガタガタと揺れる窓越しに見る。
「でも聖女のお披露目パーティーまでには王都に戻らないといけない。今日はもう遅いからあと四日。雨が止むまで三日待つの?」
これは誰もがわかっていること、三日待つということはありえない。何かしらの移動手段を探すべきだと。
「まぁ、過去の遺物でも残っていたら、問題ないのだろうけど」
車もどきがあれば、多少の嵐なら進むことはできたはず……トラクター並に足は遅いだろうけどね。
「ということで、第十一部隊の誰かと連絡がつかない?」




