456 理由付け
「『旋風の静寂』!」
私は超上空から衝撃波を発生する魔術を放った。二つの相反する力と摩擦により生じた力が、容赦なく世界に放たれたのだ。その魔術を放った私と言えば、ワイバーンの上で背後から魔王様に捕獲されていた。
案の定、私一人で行うことにルディが反対し、ファルが二人で行って来いと突き放してきたのだ。
きっと私とルディの平行線の言い合いに、イライラが限界に達したのだろう。
そして雨が叩きつける中、ルディと共に神父様の結界から追い出されたのだ。
仕方がなく、ワイバーンを囲うように球状の透明な盾を出して、雨と空との境界線まで上昇してきた。
雲が存在する高さは決まっている。ならば、この雨が降っている高さも限度があるのではと……思っていた通りだった。けれど、寒い。結界を張っているのにとてつもなく寒い。
結界で覆って下からの魔素ごと上空に来ていなければ、ワイバーンすら危うい高度だった。
だって、これいつもの倍以上の高度があると思う。そう、前世の記憶にある飛行機からみた世界の高さだった。
いつもは高いと行っても富士山上空ぐらいの高度しか飛ばない。ワイバーンに影響を及ぼさない高度だ。
凍りつくような寒さが盾を張り巡らせても入り込んできた。
そう結界ではなくて、攻撃を弾く盾。気温は攻撃して来ないから弾かなかった。
そして私が放った魔術は球状に覆った盾を中心にして、爆発的な衝撃波が放たれた。
何かを壊してはならないという手加減などする必要はなかった。なぜなら、ここには青い空しかないのだから。
雲がないのに雨の境界線ができているという謎の光景は、辺り一帯からは消え去り、青い空が続いていた。
「リュミエール神父。地上の方はどうだ?」
『ワイバーンが飛べそうな雨にはなりましたね』
ルディの聖騎士のタグから、神父様の声が聞こえてくる。やはり、上空だけ吹き飛ばしても、地上の雨は止むことはなかったようだ。
『アンジュ。ワイバーンが飛べる高度でも、雨の排除をしてください』
「はーい」
ここよりも高度を下げた場所でもう一度行って、一気に北上しようという計画だ。
しかし、大気を満たす神の力っていったい何?
龍神の女将さんなんて王都まで雨を降らせていたし、神っていうモノの力って大きすぎない?
だから神と呼ばれているのだろうけど。
「ルディ。下に降りよう。さっさと終わらせないと次の波が来てしまうかも」
「ああ。しかし、その考えは合っているのか?わざわざ力に揺らぎがある必要はないだろう」
ルディはワイバーンに高度を下げるように促しながら言ってきた。
私が言った雨の強弱の波が、周期的に起こっているということが疑問のようだ。
でもこれは私は理由付けただけで、この地に住んでいる人の主観だからね。
でも確かに龍神の女将さんのときは、中心に近づくほど降雨量ならぬ、降雪量が増えていた。
それは力の源である龍神の女将さんの周囲が一番影響を受けたからと言えた。
だけど、今回は雨が降ったり止んだりするという不可解さ。
だから、私は力を波にとして予想したのだ。
「異形のことなんてわからないよ。ただ遊んでいるだけなのかもしれないし」
「なんだそれは?」
「だって《宴》なのでしょう?」
「それ随分前にリュミエール神父と話していたやつだな。そもそも『何の宴』なんだ?」
そこも別に『何か』である必要はないと思う。
「酒吞と茨木をみていたらわかるじゃない?楽しければ、それでいいのだと思う」
首だけの武者なんて戦いたいだけだったし、大天狗は若という者を探していただけだったし、夜叉も酒吞の同類ぽかったし、天神なんて自分の世界を築いていたよね。
理解しようとするほうが無理なのだと思う。
「そういうものなのか?」
「理由付けなんて、後からいくらでもできるからね……『旋風の静寂』」
ワイバーンのいつもの飛行高度に戻ってきたので、さっさとやることを済ませておいた。
どれほど保つかはわからないけど、大方は怪神というモノが放つ力を、遠くに吹き飛ばすことができたはず。
「理由付けか。確かに……」
ルディは私の適当な言葉で納得してくれたようだった。
無理だった。
私達は再び足止めをされてしまった。
再出発から一時間もしない内に、突風がバチンと神父様の結界に当たったかと思えば雪混じりの雨が降ってきた。巨大な神父様の結界を揺らすほどの豪雨だ。
神父様のチートな結界であれば、進むことが可能だろと思っていたら、神父様から降下を命じられてしまった。
本当であれば昼過ぎにはジャンエース地方に到着する予定だったのに、夕刻になりかけている空が作戦の見直しを示していた。
そしてこの豪雨で安全に休める場所に行くために一旦戻ったとも言えなくない。
「やっぱり禁忌の転移するしかないんじゃない?」
一度来たことがある第一部隊の駐屯地に、私の声がむなしく響いたのでした。
申し訳ないのです。457話は土曜日帰ってから書きます。




