448 陛下を助けようと望んだ力だ
「だから、私は思ったわけ。私と神父様がいて、常闇を光で満たせないなんておかしいって!」
「普通は思いませんね」
「常闇だからな」
「アンジュの思考は相変わらずぶっ飛んでいるな」
いつの間にかファルが戻ってきていた。
そんなファルを私は指す。
「ファル様の聖痕って、植物系にしたら異常と言っていいと思うの」
「お前、言い方を考えろ。俺のは全ての植物を操れるだけで、異常ではない」
ファルは異常ではないというけど、鳥型の植物は無いと思う。……いや、何処かにあるのかな?私が見たことがないだけで。
「恐らくあの緑の手を持った女性以降、現れなかったのかもしれない。ファルの能力は彼女と同じように使えているから」
あの映像が何処まで真実かはわからないけど、無から有を生み出す能力は半端ないと思う。食べれたし。
たぶんファルがいると食べ物に困らないと思う。
「獣王と聖王が世界から死を無くした。正確には力を持つ者の魂の保管。それにより、聖痕の劣化が始まったのだと私は考察したわけ」
「アンジュがまた理解不能なことを言い出している」
「アンジュちゃんだからね」
そこにロゼとリザ姉が戻ってきた。それは途中から聞いたら理解不能かもしれないけど。あとで、そこでガタガタ震えているエリン姉からでも聞いてよ。
「ルディの聖痕も今まで発現した者は皆無だったと思う。恐らく一般的に望む力ではないから……そう言えばファル様は何を思ってその能力を手に入れたのか教えてよ。ルディは教えてくれないんだよ」
「ん……それは陛下を助けるためだった。でも何も役に立たなかったが」
ああ、毒を盛られた王様を治そうとしたのか。でも王様の毒を解除するには、私の毒の聖痕が必要だったから……あれ?何でファルに毒の聖痕が現れなかったのだろう?
「それは先にアンジュが聖花の狂乱を手に入れてしまったので、次に近い能力を手に入れたのでしょうね」
「ああ、私の方が先だったわけね」
確かに同じ聖痕の能力には出会ったことはない。何かしら微妙に違ったりしている。
「それで光と太陽で明るくならない闇って何って思ったんだよ。例えていうなら、夜の星ぐらいの明るさしかないって一対二の対比としてはおかしすぎるって」
「その例えはわかりやすいですね。一対二ですか。それで能力の劣化を疑ったと。それは考えも及びませんでした」
「それでアンジュは逢引していたと?」
ルディ。そこから離れようか。私は能力を奪うためだったと言っているじゃない。
「ということで、死の国に行くために聖痕を手に入れた聖王の能力を奪ったってわけ」
「凄く話が飛んだぞ!」
それは最初から話を聞いていなかったファルが悪いんだよ。私はルディと神父様の質問に答えていただけだからね。
「たぶん、それで聖痕の力が穢れていたっていう話」
「伊邪那美、伊邪那岐の話ですか」
「おぅ!アマテラス。食えそうなモノを狩ってきたぞ!」
茨木と酒吞が戻ってきた。それも酒吞は巨大な鳥を担いでいるように見える。私からは玄関扉の向こう側に酒吞が見えるため、何を狩ってきたのかわからない。
「解体を手伝いましょう」
突然置物を装っていた甲冑が動き出した。そして足早に外に向っていっている。
「これはエリンエラは限界だったわね」
「あの二人も怖いのにね」
リザ姉がエリン姉が限界だったと言ったけど、この室内にいたくなかったのなら、第七副部隊長として部隊に指示を出しにいけばよかったのに、なんでここにい続けたのだろう?
「エリンエラ副部隊長!外に出てこれたのなら部隊の指示を手伝うとかしろ!なんで第十二部隊長が指示してるんだ!」
あれ?なんだか聞いたことがある声だ。
「ルディ。解体の見学をしていいかな?」
適当な理由をつけてルディの許可をとる。そう、今までスルーしてきたけど、私はずっとルディに捕獲されていたのだ。だからルディの許可がないとルディの膝の上から動けないでいる。
「ああ」
許可が出たので私はルディの腕から逃れ、開け放れた玄関扉から外に出た。
そこには動き出した甲冑のエリン姉に突っかかっている甲冑がいた。
あ……そうだよね。仕事中だから甲冑をまとっているよね。
でも、この声って聞いたことあるんだよね。
「ルディ。あれは誰?」
私は背後霊のようについてきたルディに聞いてみた。
「第七副部隊長だ」
「……それは隊章をみればわかる」
所属部隊と役職を示した隊章が甲冑の肩に刻まれているのだから。
「神父様。知っている人っぽいのだけど、誰なのかなぁ?」
「ベルグラドですよ」
「ああ!ガゼス兄といつも一緒にいたベルグ兄か」
すると、エリン姉に突っかかっていた甲冑が私の方を向いた。
「うげっ!なんでアンジュがここにいるんだ!エリンエラ!アンジュが戻ってきたのなら言えよ!俺はさっさと現場に行くからな!あとは頼んだぞ!」
私がいると認識した瞬間に、慌てて踵を返すベルグ兄。何故にそんなに慌てて去ろうとするわけ?
「エリンエラ。ベルグラド」
その背中を神父様の声が引き止めたのだった。




