445 ルディはなぜ闇の力を望んだのだろう?
「何故にルディがいるわけ?」
空を自由に移動できないから、私以外は落下するしかなかったはずだ。
「昔から結界を足場にすることはできていたが?」
はっ!確かに子供の頃それで捕獲されたのだった。
「自由落下中に術を使うというのは、なかなかない貴重な体験でしたね」
そこにワイバーンに乗った神父様が声をかけてきた。あれ?ワイバーン?
ということは、結界を足場にして、ワイバーンが来るまでその場で留まっていたってこと?
うん。上を見ていたから気づかなかったけど、ルディもワイバーンに乗っているよ。
「アンジュの精霊が足場になってくれましてね。空中戦の経験もありますが、私もまだまだだと思わされました」
ヘビ共の姿が見えないと思っていたら、落ちていった神父様たちを助けに行っていたようだ。
確かに、足場のないところで、集中して術を発動しようと思えば、コツが必要だからなれないと難しいのかもしれない。
「天神を倒すなんて流石アマテラスだな」
「地面を失うという経験なんて、中々できるものではないですね。新鮮で面白かったですよ」
酒吞と茨木も合流してきた。
茨木は、天神の世界の崩壊が面白かったらしい。
私にはわからない感覚だ。
「酒吞。茨木。ありがとう。お陰でワイバーンを失わずにすんだよ。ファル様に頼んだはずなのにね」
「アンジュ!あれはアンジュが悪いって言っただろうが!」
途中でワイバーンの守りを放棄したファルに言われたくないね。私はそのとき、天神の策にハマって空間隔離されていたのだから。
「あ!私のワイバーンがいた!」
「アンジュちゃん!無事でよかったわ。色んな意味で……」
ロゼとリザ姉も合流してきた。緑龍の背中に乗って……
「『日本むかしばなし!』」
「何かまたおかしなことを叫んでいるわね?」
まさか、緑龍の背中に人が乗っている光景をこの目で見ることになるなんて、思ってもみなかった。
ん?ということは、神父様たちもあの状態だったと?
「ぐふっ!」
それはそれで見てみたかったかも……
「アンジュ。俺の質問に答えていないが?」
私を見下ろす魔王様の瞳に苛立ちが見えはじめた。
そう言われてもね。
あの常闇はルディに作られたので、できたてホヤホヤだった。なので、浅かったから、ルディにも閉じることができたかもしれない。
でもついでに周りに他の穴もないのか調べてから閉じたから、それは私がすべきだと思ったんだよね。
それにあんなに近くで常闇を閉じたのは初めてだったから、誰かを巻き込まない保証がなかった。
「ルディ。自分の未熟さを私の所為にしたら駄目だよ」
私はへらりと笑って答える。そもそものきっかけが、ルディが天神に騙されたからだ。
本当であれば、一番近い常闇から天神を捕まえる鎖が出てくるはずで、すでに存在している常闇を閉じればよかった。そうすると、今までどおり常闇を閉じることに対して巻き込まれるという事態を考慮する必要はなかった……はず。
「あ?」
「まぁ、ルディが常闇を操れるという新発見があったからよかったね。でも次からは離れたところに常闇を出現させて欲しいかな?」
「俺が常闇を出現させたというのは、おかしいだろう。そもそも常闇が現れる原理がわかっていない」
あ……そのことに関しては否定的なんだ。おかしいなぁ。
私はちらりと神父様の方を見たけど、さっきまでいた場所にはおらず、ファルとヴァルト様とで何か話し合っていた。
……私を擁護してくれる人はこの場にはいなかった。
常闇の現れる原因は世界の意志が関わってくることなので、明確な原理なんてないのかもしれない。
そう思うと別の疑問も沸き立ってくる。なぜ、ルディは闇の聖痕を発現したのだろう?
ルディは何故闇の力を望んだのだろう?
恐らく今まで闇の聖痕持ちはほとんどいなかったはずだ。いや、いなかったと言い切ってもいいかもしれない。
これも世界の意志が関係してくること?
「そうだね。それはルディが私の死に対して、何を世界に望んだかに関わることじゃないのかな?」
本来であったら、アンジュという孤児の幼子はあの場で死んでいたことだろう。三つ首の黒い獣に殺されていた。
アンジュという幼子の死に、ルディは世界に何を望んだのか。そして偽物の私の死体に何かを思い、ルディは力を覚醒させた。
その力は世界を歪ませるものだった。
なぜ?
「アンジュ。それをアンジュが俺に聞くのか?」
あ……魔王様。背景が歪んできているので、力を抑えて欲しいかな。
私はへロリと笑みを浮かべ、ルディの言葉には答えなかった。闇の力を望んだ理由はルディ自身が納得して、向き合うべきことだからだ。




