442 失策に気づいてしまった
「今、思ったのだけど」
私は気づいてしまった。作戦の欠陥に。
「ここで常闇を強引に開けば、私達も常闇の中に呑み込まれない?」
ただでさえ、常闇に満たされた中にいる。黒いモヤが辺りを満たし、視界を悪くしている。
建物の中では、壁や床が光源である私の太陽の聖痕の光を反射している。
だけど、上を見上げれば天井は破壊され、既に私が放った炎は消え去り、黒い闇に覆われていた。
視界の確保ができるのは太陽の光が届く範囲までだ。
常闇が表の世界に出てきてしまっている。
だから、今までは周りにある黒いモヤごと押し込めるために、一旦常闇を更に広げていた。すると中から悲鳴のような音と共に、黒い鎖が放たれる。
触れたことはないけど、黒い鎖には触れないほうがいいと感じていた。
しかし、ここはすでに常闇に満たされた中心。この場で、あの空間にヒビがはいっているようなところを強引にこじ開けると、黒い鎖の直撃を受けることは目に見えている。
詰んだ。
ここまで来て詰んだ。
「あの隙間に押し込めないのか?」
ファルがそう言ってきたけど、そう簡単に押し込められるものなの?
「そもそもだが、何故あの隙間はできたのだ?天神という者に相対したときには存在していなかったはずだ」
ヴァルト様の言う通り、あの常闇が漏れ出ているきっかけだ。
「状況的にはルディが開けたのだと思うのだけど、私の意見はルディは常闇を自由に操れるのではと……本人に自覚かあるのか不明だけど」
これはルディが何度か引き起こした世界を暗闇に変えた事件だ。はっきり言って一定範囲なら闇の聖痕の力だと納得できた。いや、今までそう思い込もうとしていた。
そう、範囲が広すぎるのだ。いい例が、私が太陽の聖痕を手に入れるきっかけの一ヶ月続いた極夜だ。
ルディは王都にいて、私は山脈を越えた更に南のキルクスにいた。はっきり言ってこの影響力は尋常ではない。
そしてルディが機嫌が悪くなると背景が歪む現象。私はこの場にいて目にしていなかったけど、おそらく空間の歪みに限界がきて、ひび割れが入ったのではと予想している。
ただ、これは予想だ。
意識してそれができるのであれば、常闇に悲鳴を上げさすことなく広げることは可能だろう。
しかし、これを行うにはぶっつけ本番しかなく、ルディが無意識だとするとアウトだ。
「できる、できないではなく。やるか、やらないかですよ」
神父様の言葉に思わずため息を吐きたくなる。やらないという選択肢なんて初めからないのだと。
やるしかないのだと。
「神父様。わかっているよ。天神を落とす」
私は右手を下に向けて銀色の鎖をジャラジャラと出していく。
「相変わらずだけど、作戦なんてないからね。常闇が開けば御の字。開かれなければ強行手段にでる。ただそれだけ」
そして左手にはいくつもの炎を作り出していく。
「もう、強行するようにしか見えないが?」
「ファル様、うるさいよ。取り敢えず天神をルディから引き離す」
ルディには穏便に常闇を開いてもらわないといけない。
そう言いながら、いくつもの炎の玉を天神とルディに向って投げつける。
もちろんこれは避けられる前提で投げたのだ。
双方は炎に気が付き距離を取った。そして両手をすり合わせ、大きく離す。
すると編まれた銀の鎖が天神に向ってヘビのように蛇行しながら向かっていった。
「うわっ!生き物みたいに跳ねているけど、アンジュが操作しているのか?」
「何言っているの?ムチとかでもあんな動きするよね。神父様とヴァルト様が天神に向って行ったのだから、ファル様も援護してよね」
「わかっている。『翠鳥縛』」
ファルが出した百羽に上る緑色の鳥が天神に向かっていく。ファルのその技も大概だと思うけど?
「アンジュ!常闇を広げるのではなかったのか!」
あ……魔王様が戻ってきた。それも黒い聖痕が右頬の方まで侵食している。
もう見た目からでも魔王様呼びしてもいいと思う。
「それはちょっと問題発生が……。捕まえた!」
私が出した銀の鎖が天神の左腕を拘束した。緑の鳥まみれになっている天神のだ。
「なんかよくわからない物体になっているよ」
「アンジュ。説明だ」
「ああ、それね。この距離で私が常闇を広げると、全員が巻き添えをくらうから、ルディに常闇を広げて欲しいんだよ」
「何を言っているんだ?そんなことできるはずないだろう」
普通にできないと言われてしまった。
これは無自覚で力を使ってしまっている。
神父様!強硬手段になりそうだよ!




