430 黄色い花の木がない!
「(取り敢えず、私が外まで渡す橋をつくるよ。その魔鼠で片っ端から赤や黄色の花が咲いている木を伐採して)」
「(無理だから)」
何を言っているのかな?無理じゃないよ。
あれ?外の梅の木を見ると紅梅と白梅しかない。
もしかして、あの黄梅と名乗っていたのもただの幻影が実体化したもので、本体は『バレた』と言っていた紅梅のみだった?
ということは白梅が何処かにいる?
「ねぇ!緑の蛇」
元通りになった緑の鱗をまとった蛇に声をかけた。
『我は龍であると申しておる』
「そんなのはどうでもいいの!白梅っているの?」
『白梅は屋敷の外の警護にあたっておる』
白梅がいた!それも外ってことは、ファルのところにいるのかもしれない。
幻影って気が付くかな?
その辺りは、茨木がフォローしてくれることを期待しておこう。
そして私は再びロゼに視線を向ける。
「(ロゼ。時間に限りがあるんだよ。私は先に進むから、魔鼠で一斉に花が咲いている木に攻撃をしかけて欲しい)」
紅梅という名前からして梅の木が本体だ。それに菅原道真は梅を愛でていたという話があるぐらいだからね。
「(どれが本体かはわからないけど、赤い花と白い花が咲いている木が一本ずつ幻影を生み出す木があるはず)」
「(アンジュ。わかっていると思うけど、魔鼠の攻撃力はそこまで高くないよ)」
そんなことはわかっている。必要なのは数だ。それにネズミの歯は木も削って穴を開けることができるのだ。
「(必要なのは、一斉攻撃をして本体を見つけること。あと木が空を飛んだら、それが本体だから火球でもぶっ放して燃やしてしまえばいい)」
「(え?木が飛ぶの?)」
「(……飛ぶんじゃないのかなぁ?その話有名だし)」
「(どこの話よ!)」
「(あ……まぁ、そんなことで『茨の道』)」
私は茨の聖痕で、足元から外に向かって茨を編むように道を作った。
やはり、部屋の空間には何も仕掛けはないようだ。普通に金属を溶かす雨が降る玉砂利の庭に橋を作ることができた。
「(これ、人は歩けないよ)」
「(え?通るのは魔鼠だからいいよね?)」
流石にトゲがある植物の上を歩けだなんて非道なことは言わない。
「(それだと、私はここから動けないよ)」
「(大丈夫。緑の蛇をつけるから)」
「(それ本人の了承をとってないよね!あと異形なのに信用していいの?)」
もし、私達に敵意があるなら、わざわざ紅梅の話はしなかっただろう。
それに青藍と月影もそうなのだけど、策を練ってなにかするよりも、直球的な行動が多い。
多分、何かを画策するのは龍というものは苦手なのかもしれない。いや、龍という種族のプライドが邪魔をしているのかもしれない。
「ねぇ緑の蛇」
『龍だと申しておる』
「はいはい。木が生えていたのを取ってあげたよね?」
『うむ……どうしても我を龍と認めぬのか?』
どうしてそんなに龍に拘るのかなぁ?だからそんなプライドなど、今ここでは必要ないんだよ。
私は紫色の聖花を手のひらから生やす。
「はぁ?あのまま臥龍梅の苗どころになっていれば良かったと?だったら、私が今からその体に毒の花を咲かせてあげてもいいけど?龍というなら、これぐらい自力でどうにかできるよね?」
すると、緑の蛇は凄い勢いで首を横に振り出した。
「うわぁ。えげつないよ」
「流石に身体に生やされるのは嫌よね」
ロゼとリザ姉が、引き気味に私から距離を取っていく。……二人ともその聖花を身に着けているのわかっているのかな?
「自分の未熟さを理解できたら、ここでこの女性を守って!わかった?」
すると今度は縦に首を振り出した。……なんか龍の張り子の置物みたいになっているよ。
「(と、いうことで了解をもらえたよ。ロゼ!)」
私は笑顔を浮かべて、ロゼに向けて親指を立てた。そして、そのまま私の背後を示す。
さっさと魔鼠どもを外に行かせて、梅の木をかじり尽くせと。
「(アンジュちゃん。心配だから私もここに残るわ)」
「(リザ副隊長!)」
リザ姉がロゼとここに残ると言った。何が心配なのだろう?
二人とも補助系だけど、それは周りが強いから補助に回っているだけで、個人としての実力は問題ない。
神父様の教え子だけあって、普通に戦えるのに。
「(まぁいいけど、一応ここにも一輪置いておくよ)」
私はそう言って、さっき出した聖花を蔦に絡ませて天井の近くに設置しておく。ここで死角になるのは床下か天井だ。
床は魔鼠がいるので設置できないので、必然的に天井近くになる。
「(それじゃ、私達は先に進むから。ロゼ。根こそぎ食い散らかして)」
「(それ、私の食い意地が悪いみたいから言い方を変えてよね!)」
私は魔鼠どもが大移動を始めたのを確認できたので、ロゼの言葉には答えずに足を進める。
あ……私が色々決めてしまったけど、ロゼとリザ姉の上官はヴァルト様だった。
「(ヴァルト様。リザ姉とロゼのことを勝手に決めてしまって、ごめんなさい)」
せめて第十二部隊長のヴァルト様に確認をとるべきだった。
「(我々は貴女の聖騎士だ。貴女の命に従うのは当然のこと)」
この場合は私が一番上になるのか。
「(アンジュ。一つ聞きたいことがあるのです)」
神父様が私に念話で問いかけてきた。なにだろう?
「(どうして木を標的にするのですか?)」
「うげっ!」
それを聞かれるの?
聞かれても、どう答えていいかわからないよ。
菅原道真が太宰府につくと一夜で梅が飛んできたという逸話があるなんて、話せるわけないじゃない。
補足:黄梅は梅ではありません。初めから偽物でしたw




