426 空間を食らう闇
「アンジュ!一人で飛び出すなと言っただろう!」
私は薄暗い廊下でルディに怒られている。私の足元には落とし穴のように板の床に穴が空いていた。六つだ。
「ルディ。先を急ぐよ」
しかし私はルディに先に行くことを促す。神父様が言っていたことは本当かもしれない。『相手はこちらの行動を見ていますね』という言葉。
そして薄暗い廊下を進み出した。
天神はこちらを見通している。
あちらに情報をこれ以上渡すのは得策ではない。だったら、既にこちらの手の内を見せている技で倒した方がいい。
ならば、重力の力を操れるという私の聖痕と、呪いを浄化する力で対処すべきだ。
「アンジュって絶対に私達相手でも躊躇無くぶっ殺すよね?」
「あら?訓練でも容赦されていた気はしなかったわよ?」
後方でロゼとリザ姉が何か言っているけど無視だ。
「我々の姿を模倣するなど、中々いい策でしたね。しかし、それは普通の者であればと付け加えること」
神父様の言う通りだ。
甲冑を脱がせた意味はあった。
私達のそっくりなモノをあてがわせて、動揺させるつもりだったのだろう。
黒い毛皮のコートを着た私の姿を捉えた瞬間、私は薄暗い廊下に飛び込んで、私達の姿をしたモノを全て重力の聖痕で押しつぶした。
天神は見ている。
ここで動揺する姿を見せないためだ。
少しでも戸惑う姿をみせて、この策が有効と思わせないためだ。
私達はいいが、ファルは絶対に動揺すると思う。いや、酒吞と茨木は笑いながら倒していそうだから、問題ないか。
私は『響声』を範囲を限定して使用する。
「『天神にたどり着くまでは全て私が対処する』」
「アンジュ!」
「『これは天神に、これ以上情報を与えないため、だから天神は私に対しての対処をしてくると思う。後は一気に天神を叩いて弱らせる』」
「いい判断です。アンジュ」
神父様も天神の目があることを気になっていたのだろう。
私の意見に賛同してくれた。
薄暗い廊下を進んで行くと、背後から木戸をぶち破る音が聞こえてくる。
振り返ると……
「巨大蜘蛛!」
人の体がついていない分まだましなのかもしれないけど、蜘蛛は毒を持つ種があるから、こちらも毒で対応しよう。
「そのまま進んで!」
私は床を蹴って、重力の聖痕で巨大蜘蛛に引き寄せられるように飛んでいく。
巨大蜘蛛は私に向かって前足を上げて戦闘態勢になった。だけど悪いね。
私は殿の神父様の背後に降り立ち、手を前に突き出す。
丸く玉のようになった紫の液体を出し、その場に留め神父様と並走するように走った。
「神父様。この建物をどう見る?」
はっきり言ってあちらこちらに廊下と部屋を仕切る引き戸がある。だけど私はそれを無視して廊下を進んでいた。
これはこの廊下が一番安定していると思ったからだ。
「歪んでいますね。空間の歪みです。ここままでは時間の無駄です」
空間の歪み。これほどの大規模な異空間を創る存在だ。空間を歪ませるのも簡単なものだろう。
そして、おそらく空間を歪ませて私達をループ空間に誘導した可能性がある。
そう金属を溶かす雨を降らせて屋根のある場所に誘導するようにだ。
そして背後の悲鳴を聞きながら神父様に尋ねる。
「これを突破するには?」
「シュレインに食わせなさい」
……食わせる?……あれか!空間に干渉する闇の聖痕!
「ありがとう!神父様!流石だね!」
神父様にそう言って、私は先頭を進むルディの元に戻る。が、重力の聖痕で浮いて戻ったらそのままガシリとルディに小脇に抱えられてしまった。
「ルディ。これじゃ戦えないよ」
「何故、毎回リュミエール神父を褒める!」
「え?解決作を教えてもらったから」
「解決策?先程から同じところを回っていることか?」
あ……ルディも気がついていたのか。
「そうだね。ルディ。この空間を闇で侵食して、それで元の空間に出られると思う」
「わかった」
その瞬間、左右も上下の感覚が無くなるような闇が全体を覆った。
これは進むことすらままならない。感覚すら狂わされる。
「うわっ!夜目の術でも見えないよ!」
「あらあら?明かりが……」
ロゼの叫び声が聞こえたが、直ぐに前方から明かりが見える。
そして、雨が降っている光景が目の前に広がった。
どうやら、建物と建物を繋ぐ外廊下に出たらしい。
その先の建物の入口には門番のように人が立っていた。
一人は見た目は僧兵。そして一人は蛇どもと似た感じだ。龍がいる。人の形をした龍。
私は左手を振って呼びかけた。
「ちょっとアレ誰?姿は見せなくていいよ」
龍と並び立つって相当な人物だと思うのだけど?例えば安倍晴明とか。
しかし安倍晴明は僧ではないので、違うだろう。
『あれは龍でございます』
「見ればわかるよ。その隣」
『怨霊を調伏できなかった敗者でございます』
誰かさっぱりわからない。これは茨木に聞くべき案件だったようだ。
「使えない」
『『グハッ!』』
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