423 人ではないモノ
「先程のは人か?」
私の背後にいるルディが聞いてきた。
式神が人かと聞かれると人じゃないと答えるけど、それでは何かと問われると、その答えは私にはわからない。
だって、私は陰陽師ではないから。
「人じゃないけど……人に使役された何か?近い感じて言うと黒狼の人たちみたいな?」
ルディの一番身近にいて分かりやすい例えは、王家に隷属している黒狼の人たちだと思う。
「たぶん、さっきのだけじゃなくて、複数体いると思う。けれど、それは酒吞たちに任せよう」
酒吞と茨木が露払いすると言っていたから、式神は彼らに任せればいいのだろう。
「私達は天神というモノを常闇に食わす」
戦うとは言わない。まともに戦って勝てるとは思わない。この空間に取り込まれた時点で、こちらは天神の手のひらの上に乗っているようなものだ。
この空間に常闇を開くことができれば、あとは私が常闇に沈み込ませる。あの八岐の大蛇まで食っていたのだ。天神も呑み込んでくれるだろう。
「さぁ、敵陣に乗り込もう!」
後には引けない。引くことは許されない。
だから前に進む。
金色の雲を通り抜けたところが敵の本陣だ。
金色の雲は呪だった。
私の中では飛行機に乗ったときのように金色の雲の中を通り抜けると思っていたら、聖花によって浄化され、通ったところの金色の雲は消滅していた。
これ聖花が無かったら全滅していたよ。いや、雨が降っている時点で全滅だけど。
そして消滅した雲の中から出てきたのは、骸骨だった。それも見慣れた甲冑を身に着けたままの姿の骸骨が、まるで雲に囚われていたかのように出現し、空の地面に落ちていく。
「おそらく行方不明の者たちでしょう」
神父様の言葉に誰も答えないが、この状況では生きていないだろうと予想はしていた。
いや、今現在襲撃されているので、それどころではないということだった。
「火力っていないのかよ!」
文句を言っているファル。
「酒吞は地面の方で戦っているからね。こっちに来るのは無理だろうね」
炎といえば酒吞だけど、その酒吞は着物を来た女たちに囲まれている。あ……言葉にしてしまうと、非常にモテているような感じに聞こえてしまう。
厳密には薙刀を振るっている式神と思われる女性たちから攻撃されていた。
「二つの属性を混ぜると身体が崩壊していくぞ」
「ヴァルトルクス!元々粉々に崩壊するような聖痕を使って堂々というな!」
「浄化でもいけますよ」
「リュミエール神父。普通は浄化なんて使えません!」
まだ敵本陣に到着していない上空で何が起こっているのかと言えば、ゾンビ化した魔物から襲撃を受けているのだ。
ワイバーンや飛狼、翼馬など空を飛ぶ魔物がゾンビ化したモノが襲ってきた。
何故に空を飛ぶ物たちばかりなのかというと、これらは聖騎士たちが騎獣として乗っていったモノたちだからだ。
そして異様に数が多いのは、聖騎士が乗っていた騎獣以外がまじっているからだろう。
文句を言っているファルと言えば、風か何かで切り刻んでいる。だけど、攻撃をした箇所は直ぐに回復して、そのまま攻撃が続くので、ファルが文句を言っているのだろう。
リザ姉は空中で展開しているロゼの結界内から補助魔術で支援しており直接排除するには至っていない。
今のところ対処できているのが、神父様が浄化を行い。ヴァルト様が夜叉を倒した方法で倒している。
そしてルディは……ちょっと意味がわからない現象が起きている。
闇が広がったかと思えば、ゾンビ化した魔物の姿は消えていた。常闇なのかと確認してみれば、世界を侵食する力と闇を混ぜて攻撃しているらしい。
……それってゾンビを消滅させていない?
しかしまともに戦えているのが三人だけに対して、襲撃してくるゾンビ化した魔物の数が多い。
これは私が手伝った方がいいよね。
私は左手を上げた。そして人差し指をたてて、水の空に向ける。
「光の矢よ。天風に乗りて魔を討ち滅ぼさん!『一矢当千』!」
私は右手で光の矢をつがえて、空に解き放った。
今回は痺れを引き起こすものではなく、浄化を矢にこめた。
「アンジュ!光の矢を放つときは事前に言えって言っているだろうが!」
一人文句を言っているファルだけど、今回は一回しか放たないから全部避けてよね。その言葉を発する前に、降り続いている呪いの雨と同じように、光の矢の雨が降ってきたのだった。




