421 究極の選択肢
「これも説明が難しいなぁ。首だけの異形なみに厄介だと……それ以上かな?」
あの好戦的な武士に対しても決定打に欠けて、常闇に喰わせたからね。今回は怨霊の上に天神……どうやって戦うわけ?本当に茨木の言う通り力技でどうにかなるとは思えないのだけど。
「非業の死を遂げた人なのだけど」
「人なの!」
「ロゼ、人だったモノだよ。既に死んでいる」
侍従も人であることに忌避感があったようだけど、死した後でも人であったものっていうのが駄目なのかなぁ。
だって幽霊とかいるじゃない?……いや、身近で幽霊を見たっていう人はいないな。
魔物のレイスが出て倒せなかったとか、雑魚のスケルトンばかりが出てウザかったとか、動く死体が鼻が曲がるほど臭かったという冒険者の話を聞いたことはある。だけど、空き家に幽霊が出たとかは今まで聞いたことがない。
あれ、人は幽霊にはならない?……違うな。世界に囚われた聖女たちがいたってことは、人は世界に囚われて幽霊として表に出てこれないという仮説が……ヤバいこんなところで、おかしなことを考えてしまった。これは横に置いておこう。
「人を呪い殺して、雷を落として多くの人を殺したって言われているね。だからこの雨も先程落ちていた雷も呪い。この中で呪いに対処できる人っている?」
常闇に食わせるにしろ、近づかないことには始まらない。呪いの影響を受けずに天神と戦えるかが問題だ。
「アンジュ。さっき神って言っていなかったか?神が呪うのか?」
「ファル様。神が呪うのではなくて、あまりにもの呪いを振りまくモノを恐れたため神として祀って鎮めたってこと」
「その神になった呪いを振り撒くモノと戦うためには呪いにかからないか、浄化するしかないってことなんだな……無理だろう」
無理って言われた。でも無理でも戦わないと駄目なんだよ。……あれ?そう言えば、聖女となんとかの話に出てきたものがあったような?
「あの……聖女と何とかシリーズの話で……」
「そんなシリーズ物はありませんよ」
いや、聖女と◯◯っていう題名を毎回つけられた本があったじゃない。聖女って素晴らしい洗脳をするための本。
「神父様が読んでくれた本で、聖女と死霊王っていうやつがあったよね」
死霊王は死の呪いを発する骸骨だ。いうなればスケルトンメイジだ。物語の中では骸骨が王冠を被っていたと表現されていた。
「あれ、死の呪いを受けないために聖花を胸につけていたってあったけど。あれファル様出せない?」
「そんな見たこともないやつ、出せるかよ!」
そうか出せないのか。物語の中ではかなりチートアイテムだったのだけど残念だ。
「何を言っているのです?アンジュ」
神父様にも小言を言われるのか。でも、呪いを無効化して回復までしてくれるチートアイテムってあればいいと思うじゃない。
「それはアンジュであれば出せるものですよ」
「は?」
残念ながら私が出せるのは茨であって、聖花だなんてチートアイテムを出せるのであれば、最初から使っているよ。
「アンジュは毒として使っていますが、私は以前言いましたよね。『聖花の狂乱』は諸刃の剣だと」
……なにか言われたような気がする。私の内緒で処分しようとしていた、物が取り出せない無尽蔵に入る財布を処分しようとして、バレていたというときの話のときに。
しかし私は毒の液体は出しても、花なんて出したことはないけど?
手の平を上にして、花よ出てこいと適当に念じてみる。
すると手のひらから蕾がついた茎が生えてきて、見たことがあるユリのような花が開花する。それも毒々しい紫の色をしたユリ。
せめて白にしようか。何故に紫。いや、私の舌に隠してある聖痕の色も紫だけど、毒々しい感じしか受け取れない。
これで本当に呪いの無効化になるわけ?
「これ、何かデバフがついていてもおかしくない色だけど?」
取り敢えず生えてきた物を手にとってみる。
「『聖花』は人の身には強すぎて、一時間触れ続けると死ぬと言われています」
「呪いに殺されるか聖花に殺されるか究極の選択肢!」
こんなものをつけて良く戦おうと思ったよね。その物語の聖女の聖騎士たちは。
すると私の手から毒々しいユリの花が取られる。
「ルディ!」
「これがあれば、雨も雷も関係なく動けるということだよな」
「……それが、聖女と死霊王の話に出てきた聖花とは思えないけど?」
そう言っているのにルディはマントの留め具のところに怪しい紫の花を挿してしまった。
「四百年前の聖女が『聖花の狂乱』の聖痕を持っていたと記述に残っています。因みにアンジュが毒と自称していますが、過剰回復による肉体の崩壊が起こっているだけですので、薄めて使うというのは理にかなっていますよ」
「褒められているのか貶されているのかわからない」
神父様に、何もわからずに使っているけど、使い方はあっていると馬鹿にされたような気がしたのだった。




