420 また神なの!
「死んだと思ったわ」
「リザ副部隊長。アンジュがいなければ、死んでいたと思う」
結局私が、リザ姉とロゼの治療をした。天使の聖痕でだ。他人を聖痕を使って治すのは二度目ぐらいだから、本当に治るかドキドキしたよ。
そう、ヴァルト様が回復薬ではどうこうできる状態じゃないと判断して、私に治療を頼んできたぐらい二人は酷い状態だった。
見た目は甲冑を着ていてわからなかったけど、重力の聖痕を使ってリザ姉のワイバーンまで飛んでいった。
そこで、力なくワイバーンの背に倒れ込んでいるリザ姉のフルフェイスの視野を確保する可動域を開けて見れば、皮膚が真っ黒になったリザ姉がいた。そう焼け焦げていたのだ。
私は慌てて右目から太陽の聖痕を取り出し頭上に掲げ、ロゼを重力の聖痕で引き寄せてから、リザ姉と同時に治療したのだ。
その途中、下にある水が雨のように上に降っていき、神父様のチートな結界の中に皆が避難するという事態も起こった。
雨が上に降るとはおかしなものだけど、この世界で逆さにいるのは私達の方なので、当然のことが起こったといえる。
「しかし、この雨どうするんだ?何かわからないが、毒か何かだろう」
ファルが毒と言った理由。それは雨に当たったワイバーンの皮膚が黒ずんでいき、飛ぶこともままならない状態になったのだ。
直ぐに神父様がチートな結界で皆を覆ってくれたお陰で、被害は最小限に抑えられ、ワイバーンの治療は私の薄めれば回復薬をかけてなんとかなった。
なんとかなったけれど!この場から動けないという状況になってしまっている。
神父様のチートな結界の外に出れば確実に全滅する。この現象を引き起こしている異形の姿を見ることなく全滅する。
やっぱり神父様がいてくれないと私達は死んでいたよ。神父様を外すことに同意しなくて本当によかった。
ルディには言わないけど。言ったら不機嫌になるのが目に見えるから言わないけど。
「ただの毒ならいいのですがね」
神父様は何か気になっているのだろうか。辺りに視線を巡らせている。
「毒なら甲冑に弱毒の効力も付与されているけど、この状態ではワイバーンの方が先にやられるわ」
恐らくこれは毒じゃないと思う。リザ姉とロゼを治療していて気付いたのが、火傷ではなかったということだ。
雷に打たれて黒く皮膚が変色しているのなら、皮膚が炭化するほど高温にさらされたのかと思っていた。だけど、治らない。
色々考えているとリザ姉から黒いモヤが出始めた。ここで常闇が開くのかと焦ったけど、そうではなさそう。試しに浄化をしたら白い皮膚にリザ姉とロゼが戻ったのだ。
ということは、この雨も毒ではなく呪いだと思う。
そう結論づけた私はワイバーンたちも浄化しておいた。
はぁ。これは茨木が言っていたように、力技でどうにかできる相手ではなさそう。
「茨木。茨木の予想を教えて、この上に居るのは何者?」
「恐らく天神かと」
……テンジン?天神?
「また神様なの!それも呪いを雷や雨に混ぜ込んでいるよね!」
「え?また神?私、無理だよ」
「ちょっと厳しいかもしれないわ」
「呪いだったのですか。毒にしてはおかしいと思っていたのです」
私の言葉にリゼ姉とロゼは引き気味になっている。
それに天神ってなに?どういう者?「通りゃんせ」の歌詞に天神様がでてくるけど、その天神?
「アマテラスがわかってねぇって顔しているぞ。茨木」
「ああ、菅原道真公と言えばわかりますか?」
「梅の人!」
菅原道真って梅が飛んでいったとかいう人……違う。いや、合っているけど、菅原道真って、大怨霊の一人とかで、神に祀って鎮めたとかじゃなかった?
「ふふふっ。梅の人というより、呪術師としても名が知れ渡っていましたね」
「え?これ詰んでない?」
力技では難しいかもってそういうこと!ここに入る前にもっと茨木に聞いておくべきだった。
でも、現状で何か対策が打てるかと言えば、特にないとも言える。
「アンジュ。わかったことを教えてくれないか?」
ルディに聞かれて、俯いていた顔を上げる。皆の視線が私に突き刺さっていた。
そう、私達でなんとかしなければならない。
少し整理しよう。
現状としてこの雨が邪魔。これは洪水を起こしたと言われる道真公の力。そして最初にリゼ姉とロゼを襲った雷。雷神の異名を与えられた天神の力。
その全てに己を追い込んだ者たちへの呪いが込められている。それも呪術師として名が知れ渡っていた……?
私は学問の神様としか知らなかったけど、茨木がそういうのであれば、きっとそうなのだろう。
っていう菅原道真とどうやって戦うわけ?
これこそ陰陽師の出番なんじゃない?
「うん。取り敢えず雨が降っている海を凍らせようか」
空と化している海を凍らせて、雨が降らない状況にしてから、あの屋敷に突入するしかないだろうね。




