417 魔王軍の集まりか!
「人殺しは駄目だと私に言ったのに」
私は出血多量で死にかけている第七部隊長さんの応急処置として、先程出した毒を薄めた液体をぶっかけた。
『主様。言った者は動きを封じていただけであります』
『主様。別にこの者は、このまま死しても良かったと思います』
青龍の青嵐だけを呼び出して水を出して貰おうとしたら、何故か黒龍の月影も出てきて、ヤバいことを口にしている。
私は、ヴィオに兄を殺してしまったとか言いたくないよ。
そもそもだ。私の天使の聖痕の力で治療した方が、腕もすぐにくっつくと言ったのだ。だけど、ルディはそのまま放置しろというし、ヴァルト様は騎士として立てないようにすればいいとか言うし、神父様は毒で治療してあげたほうが効果的でしょうと嫌味っぽく言った。
神父様。本当にそれは嫌味だと思う。あとで、毒の薬で治療をしたと聞いた本人はなんと思うだろうか。と思いつつ効果が高くなりそうだと思って、青嵐を呼び出して水を出してもらい、息も絶え絶えの第七部隊長さんにぶっかけたのだ。
「やっぱりさぁ、貴族ってこんな感じだと思うから、私には王妃とか無理だよ」
第七部隊長さんの息遣いが落ち着いてきたので、もう大丈夫だろう。全体的にぶっかけたから、紫色の液体にまみれた死体みたいになっているけど、息をしているから大丈夫だ。
もう第七部隊長さんに、薄めれば回復薬をかけなくてよくなったので、その場を離れようとすれば、黒い剣が私の後ろから突き出てきた。
その剣は甲冑ごと第七部隊長さんの腹を貫いる。
血を吐いた!それに痙攣をしだしたよ!
「ルディ!せっかく治したのに何故トドメを差したの!」
「始末すれば問題ない」
「駄目だって!」
何故にこの兄弟は物騒なところはそっくりなのだろう。
「シュレイン。駄目ですよ」
神父様!こういうところは、神父様は良心がある。
「殺すのであれば、後々面倒ですから、事故に見せかけて殺しなさい」
悪魔神父も同類だった。
このままだと本当に死にそうなので、空中に待機させていた紫の怪しい液体を全部、第七部隊長さんにぶっかける。
「ここには異形が引き起こしている問題を解決しにきたのであって、第七部隊長さんをこんな風にしにきたわけではないんだよ。青嵐。月影。甲冑を脱がせてどこか寝かせられるところに置いてきて」
取り敢えず、第七部隊長さんを別の場所に移そうと、二匹の蛇に頼んだ。
『了解いたしました』
『鎧を脱がせて、外にでも転がせておけば、凍死か獣の餌になりますでしょう』
いつもは双子かっと突っ込みたいぐらいにシンクロ率が高いのに、今日は何故に毒舌。月影……もしかして、青嵐だけ呼び出したことに怒っている?
「はぁ、どこか奥の部屋に、ここの住人が使っていたベッドがあると思うから、そこに寝かせておいて。それから月影、今回は青嵐に頼んだけど、そのうち月影にも頼むことがあるから拗ねないよ」
黒龍の使い所がわからないけど、取り敢えずフォローをしておく。寒空の中、この濡れた状態で外に放置すれば、本当に凍死しそうだからね。第七部隊長さんが。
『御意』
『御意』
いつもの感じに戻った蛇どもが、第七部隊長さんの足を持って、引きずりながら奥の部屋に消えていった。
あ……うん。甲冑を着たままだと重いからね。わかるけど、どうして二人で片足ずつもって移動しているのかな?あとで、足が痛いとか言われそうだよ。
「それで話を聞ける人は他に居ないわけ?」
「第七副部隊長がそこにいるわよ。説明してもらえるかしら?」
「え?」
リザ姉に指摘されてダイニングテーブルがある壁の方を見ると、置物の甲冑がいた。私が気づかないほどの気配の無さ。ある意味凄い。
「リザ第十二副部隊長。壁と一体化している私に声をかけないで」
あれ?この声は……
私は壁と一体化していると言った甲冑の元に行き、フルフェイスの視界を覆っている部分を上げた。その中から深い森のような暗緑色の瞳が私を見下ろしている。
「エリン姉」
「アンジュ。私は壁になっているので話かけないで」
あ、うん。記憶の中にあるエリン姉もこんな感じで、いつも部屋の隅にいた。しかし、ここまで存在感を消せるなんて凄い。
「エリンエラ。こちらに来て報告をしなさい」
「了解です!リュミエール神父!」
一気に存在感があらわになり、神父様の元に駆けつけるエリン姉。やはり神父様の存在は、有無を言わせない何かがあるのだろう。
そして、エリン姉は黒い甲冑の前に立った。
私はしれっとダイニングテーブルで一人干し肉を食べている酒吞の隣に座る。
ここに来てエリン姉が気配を消していた理由がわかったよ。
神父様以外全員が甲冑を身にまとっている怪しい集団がそこにいるのだ。それも中心に怪しいオーラを放出している魔王様がいる。
これは魔王軍の集まりで悪魔神父が参謀状態に!
「アンジュ。こっちに来い」
その魔王様から呼ばれてしまった。くっ、私はここで酒吞と茨木と傍観していたい。




