410 そっちの弱いじゃない!
「私はこれから行う功績を聖女シェーンに押し付けるつもりだ。彼女を最後の聖女とするために」
「最後の聖女⋯⋯」
そうシェーンに言った言葉は嘘じゃない。時間はかかるだろうし、もしかしたら私達の代で終わらないかもしれない。
でも全ての穴を閉じれば聖女の必要性は無くなる。ただ、唯一の王である獣王と二人の聖女の思惑はわからない。何を仕掛けているのかもわからない。
だけど、聖女に頼らない世界にすることは可能なはずだ。
「すると、周りの目からはただの平民の王妃より、聖女の王妃を求める声が大きくなっていくはず。聖女信仰であるがゆえに、この未来は必ずと言っていいほど起こる」
この未来が予想できてしまうから、私は嫌だと言い続けているのだ。
「だから私は聖騎士を巻き込んだ。ファル様は何があってもルディの側にいるだろうけど、ヴァルト様はそうじゃない。私に従う必要はない」
第十二部隊長さんは私に付き合う必要は全く無いのだ。だけど、リザ姉とロゼの存在がここで効いてくる。
「リザ姉とロゼはね。私の味方のようでそうじゃないってこと、ルディは気がついている?」
「⋯⋯同じ部屋の者は共同体と聞いたが?そういう風に訓練をしていると」
それは神父様の教育方針だ。同じ部屋の者たちを一個の集団と見なし、生活そのものが騎士となるべく設計されていたに過ぎない。
本当に恐ろしいよ。神父様は。どこの暗殺集団を教育しているのかと、思ったぐらいだからね。
「それはそれ。私が言っているのは、親に売られた者の末路の話。私がここ半年でふらふらと散歩をしながら仕入れた情報によると、女性の聖騎士は二十歳で退団させられるそうじゃない?」
私は昇格試験で手にかけた少女の言葉がとても引っかかっていた。
『産み腹になるのは嫌』
そう、クソみたいな聖女誕生計画から逃れられないということだ。そしてココに来てファルが神父様の伝言で言った言葉。
『どれほど自由を求めようが、それは無理な話ですよ。聖騎士団を退役したとしても、強制的に貴族と婚姻させられますよ』
これだ。だから私は情報を集めていた。
この真の意味は何かと。
「リザ姉が二十歳を過ぎても聖騎士団に残れるのは、ヴァルト様に必要だと思われているからだよね?第六部隊にいるトーリ姉もそうだよね?彼女たちは人として生きるために高位貴族の上官に媚を売るしか無い」
貴族の血が入った聖女を産まされる未来から逃れるためにだ。
「だからリザ姉はヴァルト様にとって最善の選択ができるように動く。リザ姉は神父様からかなり目をかけられていたからね。補佐官としては優秀だよ」
アンド⋯⋯家での立場が悪いヴァルト様をアンド家が無視できない立場に押し上げる。
それは王家の側近になること、リザ姉が私に構うのは、ルディの存在から王家に食い込もうと思っていたと思う。
しかし予想外にも聖騎士という立場を得たために、今度はヴァルト様と聖女である私との仲を取り持つように動いたのだ。
「そのリザ姉を私は、ルディの背後を固めるために利用した。ルディ知ってる?私がヴァルト様を褒めると、リザ姉の笑顔に深みが増すんだよ。怖い怖い」
私はそう言って、クスクスと笑う。
リザ姉は今の地位から落とされないように、ヴァルト様を利用して、私を利用しているのは知っていた。
でもそれでいい。私達は神父様が施した誓約に縛られている。
聖痕を発現した者は聖騎士に入ること。
この誓約がどこまで効力を持つのかはわからないけど、聖騎士として居続けるかぎり、貴族に利用されることはないのだから。
「ルディが王様になるって言わなければ、ヴァルト様との関係は、ただの第十二部隊長さんとしてだったけどね」
「俺が悪いと?」
「そうだね。第十三部隊は存在しない部隊っていうのがいたいよね。民衆の耳に第十三部隊の功績は届かない。聖騎士としてのルディの功績は無い。そのルディが王になる。何故ってなるよね?だからヴァルト様を巻き込んで、リザ姉が望むように私は動いた。今回のこともその一貫だよ」
ヴァルト様を褒めたのは、素だったけどね。
第十二部隊を使おうと思ったのは、後にそれはヴァルト様の功績になるなという打算があったからだ。
それは功績が得られないルディを支える一つになる。
はぁ、これが聖女シェーンが知っているゲームの世界なら、第十三部隊は表だって戦うことになっていただろう。
ルディってどう見ても隠しキャラっぽいし、最初は居なくて途中から出てくるっていうのだよね。
「そうか。俺が弱いから、アンジュはヴァルトルクスに頼ろうとしたということだな」
「違うし!」
どこからそんな話になったの!私は民衆にアピールする材料が乏しいと言ったのであって、ルディが弱いっていう話はしていない。
これは王様大好きファルも巻き込まないと駄目だ。




