402 そっちの話?
「あー聖女システムが邪魔」
聖女主義が根本的に悪い。
「でもさぁ、神父様。この現状を打破するには、新しい勢力を投入するしかないと思うのだけど?」
均衡状態を保っている状況をどうにかするには、さらなる一手を打たなければならない。
「世界が招き入れた異形を討ち滅ぼす為に、神父様は本隊というのを作ったんだよね?今動かさなくていつ動かすの?」
私の言葉に神父様は目を見開いて、そして笑みを浮かべた。いつもとは違う。優しい笑顔だ。
……どういう心情で、その笑顔になったのだろう?
もしかして、また馬鹿なことを言っていると思っているのだろうか。
「そうですね。初心を忘れていましたね」
初心?ああ、神父様が団長時代のことってことかな?
「使えないひよっこ共を、叩き上げた意味がないことになるところでした。少し私の方からも一言いっておきましょう」
神父様は優しい笑顔を浮かべながら、刺々しいことを言っている。それも私の頭を撫ぜながら。
え?私このまま首をもがれたりしない?
「リュミエール神父。それはいいですね。頭でっかちになってしまったアルデバランも出撃すればいいのです」
アルデって誰だろう?本隊の隊長とか?
って私はいつまで撫ぜられているのだろう。
が、突然空間が歪み、神父様の手が払われた。
「アンジュ。俺がいないからと言って何をしているんだ?」
転移で魔王様が降臨されてしまった。怖くて後ろを振り向けない。
「ご飯を食べている」
しかし今日は思ったより早く戻ってきた。まさかお昼すぎに戻ってくるとは……。
「リュミエール神父と仲良くか?」
「え?食べているのは私だけ。それにシスター・マリアもいるよ」
ルディ。シスター・マリアの存在が見えていないのかな?ってシスター・マリアがいない!さっきまで神父様の横に座っていたのに!
「マリアはアルデバランに会いに行きましたよ」
「いつの間に!アルデが誰かは知らないけど」
「シスター・マリアの元婚約者のアルデバラン・コルドアール諜報部隊長だ。会うたびに喧嘩しているところしか見ていないが?」
ルディがとてもわかり易く教えてくれた。
シスター・マリアの婚約者!いや、元がつくんだね。
会うたびに喧嘩しているってどういう関係?私から見るとシスター・マリアは神父様への好意しかないように思うから、いやいやの婚約者ってこと?
「まぁ、私の下にいるときから、口喧嘩が耐えませんでしたね」
昔から仲が悪かったってこと!
「それでアンジュ。リュミエール神父と何をしていたのだ?」
「怒られていた」
「頭を撫ぜられて嬉しそうにしていたのにか?」
いや、私は別に嬉しそうにはしてないよ。笑っていたのは神父様の方だよ。
「団長にいらないことを言ったって。それから嬉しそうにはしていないから」
「アンジュがサイガーザインに出撃するように言ったものですからね。自分の立場を考えなさいと注意したのですよ」
「そこまでは言っていないよ」
神父様。誇張しないで欲しい。
私は『聖騎士とは』としか言っていない。
「ルディ。それよりも今日は早かったね。お昼ご飯食べた?ここって決まった昼食じゃなくて種類がいっぱいあるよ」
「知っている。昼食は兄上といただいたから大丈夫だ。それでフリーデンハイドが文句をいいにきていたのか」
え?侍従が王様に文句を?お兄ちゃん大好き侍従がどうしたのだろう?
「アンジュがウロウロしているから、回収するようにとな」
そっち!
王様に文句をいいに行ったわけではなくて、ルディに私の文句を言いに行っていたの?
「オボロ。アンジュを自由にさせすぎだ」
「申し訳ございません。私はアンジュ様に忠誠を誓いましたので」
真っ白と言っていい朧にルディは注意をするも、朧は王族であるルディに堂々と反論した。
朧としては自分の意思をはっきりと言えるようになって変わってきたなと褒めてあげるべきなんだろうけど、黒狼としては王族に仕える存在だから、注意すべきところになる。
でも、私としては褒めてあげたい。
「はぁ……」
ルディは大きくため息を吐いて、私の隣に座ってきた。実は毎日ルディが出ていくときに外に出るなと言われている。
しかし、私が約束を破って外に出てウロウロしているから、呆れているのだろう。
「シュレイン。我々は聖騎士ですよ。行動を阻害するものではなく、先に理由を尋ねるべきでしょう。なぜ、騎士団本部に来ることになったのかとね。なぜですかね?アンジュ?」
「神父様に連行されたから」
私がここの食堂に来ることになったのは、神父様から団長の件を尋問されるためだったよね。
「違います。サイガーザインと話をすることになった理由ですよ」
えー……そっちのことを言うの?




