401 これは中二病を患うよね
「本部の食堂は決まったメニューじゃないんだ」
私はパエリアのように穀物と野菜と王都では珍しい魚介を煮込んだものを食べている。
王都は内地のため、魚介は手に入らないのに、ここでは食べれないと思っていたら、本部で食べれるじゃない!
「一夜干し?塩漬け?もう少し塩味を押さえていいと思うけど。ねぇ、王都のどこに行ったら魚が買えるの?川魚じゃなくて、海の魚ね」
川魚が売っているところは、聖騎士団がある北地区にあるのは知っている。
「中央区ですね」
「よし!朧、今度ルディがいないときに中央区に行こう」
「かしこまりました」
中央区ってそう言えば行ったことないなぁ。そんな事を思いながら、久しぶりの海の幸を楽しむ。
「それで、サイガーザインに何を言ったのですか?」
「ごほっ!」
海の幸に気を取られて、すっかり頭の中から忘れ去られてしまっていた。神父様の言葉に思わずむせてしまう。
ああ、そうだった。
「お兄ちゃん大好きの侍従の話だったね」
「フリーデンハイドは関係ないでしょう」
いや、関係あるよ。
「どうしても一週間後にまでに各部隊の隊長と副隊長を王都に呼びたいのって、お兄ちゃん大好き侍従だよね?」
「……それはスラヴァールのためではなく、聖女シェーンのお披露目パーティーに参加させるためです。聖騎士が仕えるのは聖女ですからね」
いや、私は大好きなお兄ちゃんの退位宣言の華を添えるために、聖騎士の隊長クラスを揃えたいのだと思っている。
それに、次期大将校としては他の騎士団と張り合うために、全員は揃えておきたいっていうのもわかる。
「あと、そこにサイガーザインは関係ありませんよね?」
「うーん?そこがさぁ、わからないのだけど、団長ってどういう立ち位置なの?」
「そうですね。王家に忠誠を誓った者ですので、フリーデンハイドを王家の者として立てるでしょうね」
「王家への忠誠というよりは神父様への忠誠だと思うのだけど?」
絶対に王家への忠誠ではなくて、神父様への忠誠だと私は確信している。だから、微妙に侍従を立てているのは、神父様への敬意だと私は思っている。
「それは勿論、リュミエール神父がサイガーザインの呪いを片目に封じたからに他なりません!」
神父様ではなくてシスター・マリアが答えた。そこは神父様が答えるところじゃない?
しかし、片目に呪いを封じたってことは……
「中二病の魔眼を神父様が作っていた!」
「意味がわからないことを言わないようにしなさい」
神父様が魔眼を作り出していることを指摘したら、遠回しに口に出さないように脅してきた。
いや、呪いから魔眼を作り出すって、絶対に中二病を患うよね?
「アンジュは相変わらずですね。チュウニビョウとは何ですか?」
シスター・マリアは時々私に言った言葉の意味を聞いてくる。大したことは言っていないのだけどなぁ。
「少年期の俺なんでもできるぜ、衝動から発生する行動が大人になっても出てくる人のこと」
「何でもできるですか……まぁ確かにサイガーザインの魔眼から逃れるのは、なかなか難しいでしょうね」
団長最強説は神父様も認めることだった。
シェーン。合っていたよ!凄いよ!
やはり団長の忠誠心は神父様に向けられていた。だから甥である侍従も立てているということか。
「だから侍従があと一週間でどうにかしたいって望んでいるけど、現状としては難しいでしょう?それで私が言ったの。聖騎士とは何かって」
これって私の言葉っていうよりも、神父様から何度も言われていた言葉なので、神父様の言葉とも言える。
もしかして、団長はそれに気がついて、自ら出るって口にしたのかな?忠誠を誓う神父様の言葉を実行するために。
なんだか、そう言われたほうが納得する。うん。そうしておこう。私が言ったからではない。
「アンジュからそれを言われると、お前たちはここで何をしているのだ?さっさと戦場に行けという意味に捉えられますね」
「何故に!」
私が言ったのは十二部隊の聖騎士を動員するとか、神父様のつてを借りるとかそんなことで、団長自ら動くことなんて言ってはいない。
「私は本隊っていう部隊がいるのをさっき初めて知ったのだよ。団長自ら動けって言ったわけじゃないよ」
「何を言っているのですか?太陽の聖女という存在の言葉の重さをそろそろ理解すべきですよ」
「しっ!こんなところで、そんなことを言わないでよね!」
既に昼時を過ぎているので人は近くにはいない。正確には酒吞と茨木が周りを警戒しているので、近づけないと言っていい。
だけど、太陽の聖女は現時点では存在していないのだ。
「どれだけ否定しようが、これは本当のことですよ。我々は聖騎士なのですから」




