399 神父様が凄いっていうのはわかった
「初めて会ったリュミエール様は、正に200年前の聖女様の生き写しのような姿をしていたのです」
「ぶっ!神父様が?」
思わず吹き出してしまった。あの神父様が200年前の聖女の生き写し!絵姿は見たことないけど、悪魔神父と同じと言われると聖女の方が可哀想だ。
「とても穏やかな方で、姉はその側でニコニコと笑みを浮かべている。幼い私は子供ながらこの二人ならいい国にしてくれると思っていました」
駄目だ。私の耳がおかしくなってしまったのだろうか。神父様からは想像ができない言葉が、シスターマリアから出てきている。
「でも違っていたのです。姉はリュミエール様を嫌っていた」
うん。それはきっとルディの母親は、悪魔神父の本性に気がついていたのだろう。にこにことしているのは表面上だけだと。
「怖いとずっと言っていました。今思えば、アレが姉の目には見えていたのでしょう」
シスターマリアは、そう言って真っ白い姿になった朧を指した。王家の闇を担う黒狼と呼ばれる者たち。今は神父様にはつけられていないと言っていたけど、当時は神父様にもついていたのだろう。
長きに渡る術が変質し、呪いと化した血の海の上に立つ黒狐が……あれ?もしかしてルディの母親がルディを嫌っていた理由がここにある?
「ねぇ。ルディを嫌っていたって聞いたけど、黒狼の者たちを知っていたからっていうこと?」
「恐らくそうなのでしょう。私にはわかりませんが、死者を纏う闇が姉は恐ろしいと言っていましたから。当時は姉の言っている意味がわかりませんでしたけど」
「その黒狼は神父様の兄にはつけられていなかった?」
「庶子に王位継承権は与えられませんから」
だからルディの母親は神父様の兄の愚策に乗ったのか。
うーん。この話を聞くと、やっぱり黒狼たちにかかっている呪いを解除した方がいいような気がしてきた。
「リュミエール様に怯える姉に、私は護衛騎士になるから、共にいることを誓ったのです。だって私はリュミエール様と姉が幸せになることを望んでいたのですから」
ん?シスターマリアの言動がおかしい。ここは嫌がる姉の味方になって、神父様を排除しようという動きになるんじゃないの?
いや、王族の意に逆らうことは許されないから、最善策をシスターマリアが提示したとも言えるか。
いや、でも、これは……まさか……
「しかし私が聖騎士となり、騎士の地位についたとき事件が起こりました。当時王太子であり聖騎士団の団長だったリュミエール様に、第三王子の者が王都の近くにあるダンジョンで、スタンピードを人工的に引き起こしたのです」
「ダンジョンがあるの!どこ!」
「アンジュ。今は私の話を聞きなさい」
いや、私の中にある懸念が当たっていれば、この話に意味はない。どちらかと言えば、ダンジョンがどこにあるかが知りたい。
なにか饒舌にダンジョンのスタンピードの話をされているけど、この話も少しおかしい。
「ねぇ。この話だと各部隊長が全く出てこないよね。神父様が使えない王都常駐組を引き連れて戦ったというのはおかしくない?」
言い換えれば、神父様の功績を称えるところなのだけど、正に一騎当千をしたという団長と王都で教育を受けていた騎士たちの話だ。
はっきり言って騎士が活躍したようには聞き取れない。
「当たり前です。今の体制がとられるようになったのはリュミエール様が、大将校になられてからですから」
「え?それまでは王都常駐の部隊長はいなかったの?」
「そうですよ。あと精鋭の本部隊を作られたのも、リュミエール様です」
知らない言葉が出てきた!いやさっき侍従がそのようなことを言っていた気がする。
『本隊』という言葉を。
「私、本隊っていう部隊の人に会ったことはないよ?」
「基本的に聖騎士団参謀本部と聖騎士団諜報部の者ですね。因みにリュミエール様の義理の息子の方が所属しているのが諜報部です」
「会っていた!」
そう言えば、聖騎士団の敷地の中をウロウロしていても、私を連れてきた人に会わないと思っていたら、本部隊の人だったのか。
しかし、諜報部って言う言葉を初めて聞いたよ。そして参謀本部が存在していた。
なぜ、ルディもファルもこういうのを教えてくれないの!
いや、そもそも教会で教えてくれればいいのだよ。
「教会で習っていないけど?」
「そんなものは教えませんよ。基本的に所属しているのは高位貴族の血筋の者しか所属できませんから」
あ、下民には足を踏み入れることもできないということか。差別社会ってこういうところがあるよね。
「命令されれば、肯定の言葉しか認められませんからね。存在を知らなければ近づくこともありません」
あれ?もしかしてルディにこっちの方向には進むなと言われたところに参謀本部と諜報部があるのかなぁ?
所詮、身分が無い者が自分の身を守るには、接触しないってことが一番だってことなんだね。
本当にこの聖女システムは害しかない。




