397 団長の最強説が浮上
「それでさぁ。玉藻の情報ってもう少し無いかなぁ?戦って常闇に落とそうという話なのだけど、情報がなくてね」
いや、多分酒吞と茨木に聞けばわかるのだろうけど、ゲームのプレイヤーとしての知識が欲しい。
攻略ができるのかどうか。
「戦う?多分それは無理だと思う」
「どうして?」
「全てが玉藻の味方だからよ」
これは上手く人に取り入ったという話だね。でもその全てってどこまでなのかな?
「じゃ、誰が味方で誰が敵?」
「そうね。第二部隊長のイグレシアは裏切るわね。第十一部隊長のファニングも駄目。その家は聖女誕生計画を押し進めている貴族だから、既に玉藻と接触していたの」
接触したというだけでというのは、言い換えると洗脳されていると言っている?
「頼れるのが第一部隊長のロベル。彼は庶子だからそこまで優遇はされていない。第三、第四、第六、第七、第九、第十の部隊長はこの時点ではもういないの……だけど、外に出られなくなったから、現状はわからないわね」
正式に十二部隊ある内の六部隊の部隊長が戦死。半分というのは過酷すぎる。そして、残りの六部隊の内、二部隊の部隊長の裏切り。
「この時点で主力部隊はほとんど残っていないのよ。夜叉の戦いの痛手ね。決定的なのは団長の裏切り。最終的に玉藻というより、団長一人に敵わなかったのよ」
「え?あのお菓子好きの団長が?」
「お菓子好きかは知らないけど、あの魔眼のサイガーザインには勝てないの」
なんか凄い二つ名が出てきた。魔眼のサイガー!……あの残っている隻眼が魔眼なのかな?
「右目が魔眼?」
「馬鹿ね。隠している方の左目が『冥漠の魔眼』よ」
よくわからないけど、恐らく凄い魔眼なのだろう。しかし団長は神父様崇拝者なので、神父様がこちらについている限り裏切ることはないと思う。
「その話だと団長が強すぎて、玉藻までたどり着けなかったということかな?」
「そうよ。だから戦うことはできないの」
結局玉藻の情報は無いってことか。
仕方がない。酒吞と茨木からの情報のみでどうにかするしかない。
「えっと、今の現状の説明をしておくと、第二部隊長の家を白銀の王様がサクッとやっちゃったみたいだから、そっちは気にしなくていい」
「あら?聖騎士団のバックについていたイグレシア家を排除したの?」
「そう聞いている。十一部隊長は知らないなぁ。あと今戦死をしたという部隊長の情報はないので、ほぼ全員そろっている」
「はぁ、やっぱりゲームの世界と思っていた私が馬鹿だったということね」
違うよ。崩壊しかかっている聖女システムのバグが私だ。だから、私があのとき常闇に食べられていたら、世界はシェーンの知っている世界になっていたと思う。
「取り敢えず、聖女のお披露目パーティーが終わったら、その麒麟を……使えるかどうかわからないけど、連れて常闇を封じていって欲しい。それを終えたらシェーンはシェーンとして生きる選択肢がでてくると思う」
シェーンがシェーンとして生きることを望むのであれば、誰もが納得する功績を作って、『世界を変えた聖女』という今までとは違う聖女の立場を得なければならない。
「その前に玉藻に殺されると思うけど?」
「大丈夫。それはこっちで対処するから、シェーンは最後の聖女として名を残そう」
「最後?」
恐らく最後の仕掛けの後は、聖女を必要としない世界になるだろう。
元々は獅子王がやらかしたことだ。それが世界全体に響いてしまっている。だけど、世界の穴を封じれば、聖女も聖騎士も役目を終える。もう、必要ないのだ。
「聖女に頼らない世界を創るよ。もしシェーンの代でやり遂げられなかったら、聖女システムは次の聖女を作り出すのだろうけど」
「あ……『太陽と月が手を取り合うとき世界は再構築される』」
「なにそれ?」
「エンディングに流れる謎の言葉。主人公は月の聖女だけど、太陽の聖女が全く登場しないのよ。もしかして、アンジュが太陽の聖女?」
エンディングに『太陽と月』の言葉が流れる?主人公は月の聖女。太陽の光を反射する月の役目。でも太陽の聖女は登場しない。
それで世界が再構築される?
ゾワリと何かが私の身体を駆け巡った。
あれだ。ダンジョンにいたときに感じた違和感。王城の地下で見せつけられた過去。そこから予想される地下に一人で下りていく聖女の扱いについてだ。
世界の再構築が二人の王の真の目的だったとしたらどうだろう?そんなもの一人や二人の聖女で賄えるものではない。
そして謎に現れたルディの母親と思われる人物の幽霊……魂?
肉体は滅んでも魂を拘束し続けている理由。
月は太陽の力を無尽蔵に取り込み、聖痕の力に変換する。それが歴代の聖女が揃えばどうだ?
魔力を聖気に変え、元々あった世界の姿に戻す。これが聖女システムの真の目的だったとすれば……最悪だ。




