394 また鱗
あれからルディは忙しいようで、王城に行く頻度が増えた。ということは、私の自由時間が増えたのだ。
昨日はこっそりと、朧と鬼二人と北の森に散策に行ってみた。ファルのおかげて、北の森が燃えていたというのがわからないぐらいに、綺麗に木々や草が生えていた。
それに常闇の痕跡も綺麗になかった。
かなり広かったけど、上手く閉じたようだ。
「ふーん。これでいけそうなの?」
私は外で酒吞と茨木と焚き火をしていると、青嵐と月影が現れた。そして私の前に黄色の石を差し出してきたのだ。
『博識なので対処可能だと思います』
『怒らせなければ、大丈夫だと思います』
それは頭がいいということと、見た目は温厚に見えるけど怒るととてつもなく怖いってやつだね。
「これなんていう名前なの?」
私は渡された黄色の石を掲げて聞く。
『『チーリンです』』
ちーりん?これは聞いたことがない名前が出てきた。しかし二人が大丈夫だと言うのであれば、大丈夫だと……思いたい。
ん?今思ったけど、聖女シェーンって彼女自身の魔力で、この精霊石を覚醒させるほどの魔力がないよね。
これは聖女シェーンの守護獣?っていうものじゃなくなる。
「これさぁ。私が喚び出しても、聖女シェーンについてくれるかなぁ?」
『『主様が命じるのであれば』』
ああ、喚び出した者の意志に従うっていうやつね。
それから気になっていることも聞いていいかなぁ?
「これって元からこの形だったの?」
『『是』』
青と黒が印象的な二人が、さっきからシンクロしているのも気になる。言うことが全く同じなのだけど?
その二人に琥珀の勾玉のような物を見せつける。
どうみてもこれは加工しているよね。
元々精霊石が勾玉の状態で存在しているのならわかるけど、足で踏みしめていた感じでは普通の石っぽかった。
ということは青嵐と月影が持ってくるほど、特殊な個体ってことだね。ちーりんって。
「これ作ったら、聖女シェーンのところに行くから、また付き合ってくれる?」
私は鬼の二人に尋ねた。朧の情報によると、少し広い部屋にはなったらしいけど、相変わらず部屋の扉の前には見張りがいるらしいからね。
「いいぜ」
「良いですよ」
よし、聖女シェーンに渡すための守り石を作ろうか。いや、先にヘビでないことを祈っておかないと。ヘビが嫌だからといって、捨てられると困るからね。
そして私はなんとも言えない顔をして焚き火の光に照らされた物体を見る。
「これはこれは、初めてお目にかかりました」
「流石、アマテラスだな。この国じゃぁ、聖女っていうのは帝より偉いって言っていたしな」
酒吞。何を言うのかなぁ?私は全然偉くないよ。
茨木や酒吞に関心されている物体。その姿は子犬ほどの大きさだけど、形は鹿っぽい。だけど、その背中は鱗に覆われ、顔つきは大きなヘビの姿になった青嵐や月影に似ている。いわゆる龍みたいな顔つき。
四本脚の先には馬のような蹄に、黄色いたてがみ。尾は牛のように先だけ毛が生えていた
そして、特徴的な角。頭の上に2本の角が生えていた。
「また鱗!」
今度は足は四本あるけど、全体が黄色い鱗に覆われている。
「これ麒麟じゃない!何がちーりんなのよ!」
ん?いや『リン』は合っているから、中国語か何かなのかな?
『はい。麒麟ですね』
『麒麟の性格は温厚と言われていますので、多少の問題行動でも受け流してくれるでしょう』
でもこれって霊獣の類だよね?大丈夫なの?
「麒麟って霊獣だよね?人に付き従ってくれるの?」
『我に自由になる身体を与えて下さった神帝に感謝を申し上げる』
なにか。変なことを言われて膝を折られている。麒麟に礼をとられているんだけど……
なに?シンテイって!
「麒麟に王って認められるって流石、アマテラスだな」
「瑞獣から神の王とは、新たに肉体を再構築するなど、まさに神の御業」
違うから!これは守り石を作った付随効力みたいなものだから、別に私が身体を構築しているわけじゃない。
「私の能力じゃないからね」
「しかし主様は私を一族の呪いから解放してくださいました。我々を蝕んでいた呪いからです」
朧、それは世界の力を使っているから、世界が起こしている現象を上塗りしているだけだよ。解決はしていない。
『主様。願いを力にするのは強大な力を扱える主様のみです』
『愚かな王と主様は違います故、その力は誰にでも平等であります』
……もしかして、私は無意識に世界の力を別の力に変質させているってこと?
言われてみれば、失った身体を再構築するなんて普通ではあり得なかった。
だからって、私を神格化しないでよね!




