391 突然知らない名前が出てきた!
「アンジュ。お披露目のパーティーは、西の離宮でするという話をしていたはずですよ」
「はっ!」
神父様からの言葉にハッと思い出す。
そうだった!空から降ってきた星の所為で、穴が空いた湖に囲まれた離宮で行うって話をしていた!
「王城の地下の穴を封じるのにいいと思っていたら、私が会場を変えようって言ったの忘れていた!」
『豚貴族をブヒブヒ言わそうぜ作戦』を行うのに警備を手薄にする予定だった。そのために王城では問題だという話になったのだ。
「いいよ。いいよ。僕の退位を発表をするから、今から変更しよう。それの方が面白い」
王様。あと二週間しかないのに、面白いで会場を変えたら駄目だと思う。まぁ今回は王様の退位の発表もするから王城の方がいいよね。
でも一番の問題が玉藻を倒せるかというのと、長年空き続けている穴を閉じることができるかという問題だ。
二人の王たちは他の穴を閉じてから、最後に王城の穴を閉じろと言っていたけど、順番が違うことで、王たちの仕掛けにおかしな不具合が生じる可能性があるということだ。
これは私にはわからないので、行き当たりばったりでいくしかない。
「あ、侍従に言うことがあった」
私は振り返って、背後で無言で座っている侍従に声をかけた。
「何ですか?私としましては厳重に監視している聖女シェーンとどうやって接触したのか知りたいですね」
「その態度!」
「……貴女にへりくだれと?」
「違う!」
私にへりくだってどうするの!侍従の立場もあると思うのだけど、聖女シェーンの扱いはもう少し丁寧にしてもらわないと。
「聖女シェーンと内緒で会ったのは彼らに頼めばどうとでもなるでしょう!」
朧を指しながら言う私の言葉に、朧がビクッと肩を揺らした。彼らと濁した言葉の中に、酒吞と茨木が含まれていることに気がついたのだろう。
「確かに……」
侍従はチラリと朧に視線を向けて納得してくれた。王家の監視として他の黒狼の人がつけられているから、彼らの目を盗んで聖女シェーンとの接触は出来ないといっていい。
だから彼らが私の行動を見逃した理由は、朧が居たからだと思ってくれただろう。
「聖女シェーンのことだね。聖女シェーンには常闇を完全に封じる方法を教えた」
「完全に封じる方法?」
ん?なぜ疑問形なの?神父様やルディから、今までの聖女たちが行ってきた常闇の封じ方が違うって報告されていないの?
私は振り返って、王様越しの神父様を見る。
「神父様!常闇の認識が違うかったという報告をしていないの?」
「スラヴァールには言いましたよ?」
王様で報告が止まっている!
「え?僕はサイガーザインに言ったよ」
「サイガーって誰!」
ここで知らない人物が出てきた!
すると皆から痛いほどの視線が突き刺さる。
え?なに?私、変なことを言った?
「リザ副隊長。やっぱりこういうところで、アンジュのバカさ加減がでてきますね」
「そうねー。シスターマリア様以外、全員シスターで済ませていたものね」
ロゼに何故かバカにされている。そしてリザ姉からシスターの呼び方を言われているけど、私はシスターたちの名前は覚えている。ドジっ子シスターが『グレーシ◯』と呼ばれているのは知っている。
ただシスター・グレーシと呼びかけると変な顔をされるのだ。シスター・マリアはマリアという名前なので、何も問題が起こらない。
ただそれだけ。
神父様もリュミエって呼ばれている。でもそう呼ぶと、笑っていない笑顔に深みが増すような気がするので、私は『神父様』と呼んでいるだけ。
「私がサイガーです。太陽の聖女様」
背後からサイガーと名乗る人物が現れた!振り返ると隻眼の団長がいた。
それも私に合わせてくれたのか自ら『サイガー』と名乗った。ありがたいけど、ごめんなさい。
まさか、サイガーが団長の名前だったとは……私はルディからもファルからも聞いていないよ。
「失礼しました。団長。私は将校アンジュですので、敬称は不要です」
団長から様付けって、私ってどんなに偉い人なんだってなるじゃない?
しかし、団長と侍従の立ち位置がよくわからないんだよね。二人の位置がコロコロと変わって、困惑するんだよ。
「いいえ、正式に挨拶をしていない私の落ち度です。改めまして、聖騎士団の団長を務めておりますサイガーと申します。将校アンジュ様には我々聖騎士団の危機を何度も救っていただきましたことに感謝をしております。それと共に、部下の不甲斐なさに忸怩たる思いをしているところであり、聖騎士としてリュミエール様から叱咤を受けたところであります。申し訳ございませんでした」
凄く長い挨拶をされた。
これは、団長に頭を下げられ謝罪される将校って、どれだけ偉そうなのという状態になってない?




