387 黒い鎖の侵食
「それで問題の聖女シェーンの扱いなんだけど」
「アンジュ。何故そんな適当な作戦でいくことが決定したように、次に進もうとしているんだ」
ファルに突っ込まれてしまった。だけどさぁ、多分不意打ちでも勝算はあるかどうかだと思うよ。
「今回の異形は人の中に入り込むのが上手い。それがどういうことかわかる?」
「いつ襲ってこられるかわからないってことだろう?」
「人か異形かわからないって困るわね」
「人に取り入るのが上手い?」
ファルやリザ姉やロゼが言うことは間違いではないよ。でもね、それができるってことは……
「強い異形ということですね」
「そうだね。神父様」
神父様が酒吞や茨木について何も言わないのは、彼らに敵意が無いことと、常に二人でいる彼らに手を出すと、ただですまないと理解しているからだと思う。
「不意打ちで攻撃しても、攻撃が通るかどうかわからないよ。だから、実際は作戦を立てたところで意味がないと思う。二千年生きた異形に、歯向かうという自体が無謀っていうものでしょう?」
するとシーンと静まりかえってしまった。あれ?私が話している間でも、神父様と王様と侍従がコソコソ話をしていたけど、その話を止めて私をガン見してきた。
「神とか無理って思っていたけど、二千年生きているってなに!絶対に無理!」
「ちょっと待てアンジュ。それは勝てる要素はあるのか?」
「それは……なんと言いますか……」
「ねぇ。その聖女の未来視ではどうだったのかな?」
否定の言葉が出てくる中、王様が聖女シェーンの未来視の結末を聞いてきた。うーん。バッドエンドだから、主人公の結末までしかないんだよね。
「聖女と偽者の王様が殺されて、世界に食べられて終わり。その後は聖女シェーンの知識にはなかったね。でもこの国は異形の良いようにされて滅んだかもしれない。これもまた世界が望んだ結末かもね」
そう、これは世界が望んだ人の死。世界の力を奪い取るこの国の人が死に、玉藻は次の獲物を探しに別の国に渡ることだろう。
「では、僕が相討ちを狙っていけばどうかな?」
王様が相討ちで?多分、王様は強いのだろうね。でもそういうのは気に入らない。
だって王様は生きることを諦めてしまっている。
私はそのまま自分の席に戻るように歩いていき、床を蹴り、重力の聖痕で浮き上がる。そして王様のすぐ横に降り立った。
「私はそれには答えない。だから、別のことを与えるよ」
私は何も無い空間を掴む。
「え?」
ただ王様だけが反応した。いや、神父様もかすかに動いたので、私が何かをしようとしていることをわかったのだろう。
王様の心臓から伸びている黒い鎖。これが王様を生きるということを否定させているのだろう。
その黒い鎖を私の銀色の鎖で侵食する。他の人からは私の手から銀色の鎖が王様に向かって伸びているように見えると思う。
そこで偽者の王様が動いた。
私に向かって王様の顔をした者が、刃物を振り下ろす。
わかっている貴方はそう動かざる得ない。
そこに割り込んでくる白い影。朧だ。
「朧。止めるだけ」
私は朧に攻撃を受け止めるだけだと言いながら、王様の黒い鎖を一気に侵食し、引き抜く。
「外れた。父を母を殺した鎖が無くなった」
ボロボロと崩れ去る鎖を見ながら王様が呟く。
そうか、ルディはよく覚えていなかったみたいだけど、王様は自殺した両親の死後、世界に食べられたところを見ていたのだ。
「王様。自暴自棄は駄目だよ。人はいずれ死ぬけど、精一杯生きないと駄目」
後悔しながら死ぬことになるよ。あれをしたかったとか、あのときああしておけばとか、こうすれば良かったとかね。
「ということだから、退位しなくてもいいよね!」
私は強く言った。
そう!王様が退位をしなければ、ルディが王になる必要はない!すると私が王族モニョモニョと頭を抱えることにはならないのだ!
私はやりきった!
すると、クスクスと笑う王様の声が聞こえてくる。
「アンジュ。スラヴァールがそう決めたら、それは決定事項です。それに今回は王族全てがスラヴァールの退位に同意していますので、アンジュがどうしようと覆ることはありませんよ」
「そこは神父様が王様を説得してよ!」
神父様って何かと一番権力を持っているよね!裏で組織を構えているっていうし!
王族で王様に意見を言えるって、神父様ぐらいだよね!
「僕は退位をしたあとは、叔父上の跡を継ごうと思っているんだよ。表はシュレインに任せて、僕は国の裏を牛耳るよ」
あ……うん。言っていることは理解できる。神父様もいい歳だからね。跡を継ぐ人材は必要だとは思うよ。
ただ言い方がね。王様だと本当に牛耳りそうだから怖いよ。
ってことは、私が王族から逃れるすべは一つしかない。
「契約解除していい許可が欲しいです」
「シュレインの王位を継ぐ条件が、君を王妃にすることだから無理だよ」
「王妃って、そんな柄じゃない!」
私、平民。王妃とか無理。
すると私の肩に手が置かれた。それもピリピリ突き刺さる空気をまとう存在。
「アンジュ。ここは外じゃないから、サインできるよな」
私に恐ろしい契約書を突きつける魔王様だった。
読んでいただきましてありがとうございます。
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「令嬢は結婚式当日に死んだ」
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