383 聖騎士を招集
ヘビ共は人型になったヘビ二人と共に消えていった。半月でどうにかすると言っていたけど、ヤマタノオロチだからねぇ。どうなんだろう?
「ルディ。ちょっと話し合いの場を用意して欲しいのだけど、神父様と侍従と王様は無理だろうから、偽者の王様を呼んで欲しい」
私はこの場でルディにシェーンのことをいってもいいかと思ったのだけど、王位云々を言われたので、その辺りを巻き込んで一括で言った方がいいと思った。
私は王族の仕事は無理って!できれば、契約破棄したいって!
「どうしたんだ?いきなり」
「できれば早急に!早めに対処しておきたい!私は王族無理って……あっ本音が出てしまった」
するとルディの背後が歪んで見えるようになる。ヤバい。
「間違えた。ちょっとその貴族の怪しい動きっていうのに、心当たりができてね。その話し合いだよ」
「アンジュ。この紙にサインしろ」
「後でね」
瞳孔が開いた目で婚姻届を差し出さないでほしい。
私はそっと王族の名前が書き連なっている紙を押し返す。そんなところで、名前だけのサインなんてできるか!
私は平民のアンジュだ!
「アンジュ!」
「だから!こんな雪の中で書けるわけないでしょ!」
しつこい!
するとルディが通信機となる聖騎士のタグを取り出した。
「わかった。リュミエール神父。フリーデンハイド。兄上。あと聖騎士共。太陽の聖女から呼び出しだ。直ぐに第十三部隊の詰め所に来ていただきたい」
「ちょっと待って!今すぐじゃなくていいし!王様じゃなくて影の王様で良いって言ったじゃない!」
なぜ今すぐなの!それに今、神父様たちは王城にいるはずだよね!
『了解した』
第十二部隊長さんの声が聞こえてきた。
『ん?シュレイン戻ってきたのか?陛下もなのか?お前ら今から綺麗に掃除をしろ!ヴィオーラ、その毒物はきちんと処分しろよ!』
ファルの声も聞こえてきた。王様大好きファルが王様の退位を聞いたらどう反応するんだろう?
しかし、ヴィオはまた毒の生成をしていたのか。
『スラヴァールもですか?……昼ご飯を用意しておいて欲しいそうですよ』
王様は昼ご飯を食べにくるらしい。まぁいいか。
『それでアンジュはやはり、サインしないと拒んでいるということですかね?』
『あ、以前食べたニクドンって言うのが食べたいからよろしく』
神父様、そこは私の行動を読まなくていいよ。
っていうか、普通に無理でしょう!サインすれば、すべて素通りして婚姻が成立してしまう書類って!
そして、神父様の通信機から王様のお昼ごはんのリクエストが割り込んできた。王様、肉丼が気に入ったんだ。
そうして二時間後には全員揃っていた。
「いやぁ、今日の会議は面白いほどスムーズに進んだね」
王様はそう言いながら、スプーンを使って肉丼を食べている。
「いつもなら、こちらの言い分に対してグチグチ言って、会議が進まないのにね?」
背後で無言で立っている偽者の王様に言っているけど、その王様そっくりな偽者の王様は私の後ろに立っている真っ白な人物をガン見している。
あれから狐の目の色は何が良いって朧に聞いて、金色と言われて金糸で目を縫ったら本当に金眼になった。
何気に私の刺繍の恐ろしさが露見してしまったとも言える。
まぁ、金眼は元々の色だから問題はないのだけどね。
神父様は王様の隣で無言で肉丼を食べている。朧の色が変化したことも一瞥しただけで、そんなこともあるだろうという感じだった。
因みに今は赤い鳥は居ない。
侍従は神父様とは、逆の王様の隣に座って無言で食べている。その背後には隻眼の団長が立っていた。相変わらず、この二人の立ち位置がよく分からない。
王様の向かい側にいるルディは、王様の話に相槌を打つわけではなく、私に美味しいねと言っている。
そしてファルと第十二部隊長さんは普通に食べているけど、リザ姉とロゼはガチガチに緊張しているのがわかる。
呼び出されて突然、王様と食事って食べ物が喉が通らないという感じだ。
そう、誰も王様の話に相槌を打っていない。
「それで不思議なことがあるらしくてねぇ。そうだよね?」
また王様は背後の偽者の王様に声をかけている。すると、偽者の王様の視線が朧から私に移った。
「これはどういうことなのでしょうか?我々はこの苦から解放されることが可能なのでしょうか?」
すると王様からクスクスという笑い声が聞こえてきた。恐らく別のことを言ってほしかったのだろうけど、偽者の王様としては、朧の状態の方が気になったのは当たり前だろうね。




