380 聖女の居場所
おそらく気づいていないと思うけど、時々日本語が混じっている。だから、他の人は聞き取れない言葉を話す聖女だと認識されて、遠巻きにされているのだ。
あと感情的になることかな?
今での歴代の聖女は貴族の女性だったから、己を制御できていて、感情的になることはなかったと予想できる。
そして、何か気に入らないことがあると人を使ってことを成す。
ルディの母親のようにだ。
聖女に課せられたことが嫌だと国を出てこうとしていたみたいだけど、敵は世界だから、成功していても無意味だっただろうね。
さて、彼女を任せられる人はいるかと考えてみたけど、私の人脈ってキルクスの教会の人たちだけだからね。そもそも貴族じゃない知り合いの方が多い。
こういうのは、やっぱり自分で見つけて欲しいものだね。
「うーん。じゃ、シェーンが居た村には信用できる人っている?」
緩衝材になる人がいれば、いいのではないのかと考えてみた。
「居ないわよ。村の人達も私のことを、おかしな子供としか見てなかったもの」
……これは根本的に彼女自身がかわらないと駄目かもしれない。両親ではなくて、全てを合わせた村人という言葉を使う時点で、彼女が他の人とコミュニケーションを取ることを放棄していることがわかる。
日本語がわかる酒吞か茨木に緩衝材にと思ったけど、もう敵意が丸出しで、シェーンが行動をとろうものならヤるぞオーラが酷い。
「言葉の問題かぁ……いや、性格の問題?」
「主様全部です。今はシュテンとイバラキが居ますので使っていませんが、聖痕に力がみなぎると、直ぐに力を使おうとするのです。あのハンカチは取り上げるべきです」
朧からも敵意が丸出しの言葉が聞こえてきた。でも彼女を守ってくれない人たちの中で、身を守る手段があると無いとでは、心の余裕が変わってくると思うのだけど。
「でも、聖騎士団から出ていったとして、どこに行く宛があるの?そもそもお金を渡されていないよね。王都の物価って田舎より高いから、宿を取っていると暮らしていくだけで精一杯だと思うんだよね。結局シェーンは誰かに庇護してもらわないと、生きていくのは厳しいと思う」
「本当のことだけど、顔の割にズバズバと厳しいことをいうのね。アンジュは」
「お金がないと満足に食べ物が食べれなかったからね。顔は関係ないよ。それに私のような者が一人ふらふらしていると、貴族に攫われて、聖女誕生計画に組み込まれるからね。私も誰かの庇護を受けないとこの国では生きていけないよ」
聖女誕生計画の言葉を言うと、シェーンの顔色が一気に悪くなった。恐らくゲームでの知識があるのだろう。
「どこか匿ってくれる場所ってないの?」
「他国に行けば可能だろうけど、シェーンには王族の影が付けられているから無理だね」
まぁ、あと私が言えるのはこれぐらいかな?
「だったら、自分で自分の地位を確立するしかないね」
「どうやって!」
「今、問題になっているのが、世界の穴なんだよ」
「そんなことは初めからわかっているじゃない!」
「それが、そうでもなくてね。シェーンはどうんな風に穴を塞いだ?」
「そんな物は穴に蓋をすればいいことでしょう!」
やっぱりそういう考え方だったか。穴が開けば、そこを塞げばいい。そこに深さがあるとは誰も思ってはいなかったということだ。
「実は違っていてね。穴は落とし穴のような形をしていることが分かったんだよ。だから蓋をしただけでは、蓋を踏み抜けば再び穴に落ちちゃうってこと」
「え?落とし穴?」
「そうそう、落とし穴。だから空間をねじるように閉じていくのが正解なの」
シェーンは信じられないという表情をしている。これはゲームでもそういう流れだったということかな?
「でも、穴は蓋をすれば……」
「最近。その蓋にヒビが入って、小さな穴だと思い込んでいたところから、大物の魔物の出現率が増えてきているの」
特に王都の北の森は酷かった。小さな常闇だけでも両手以上の数はあった。
「この思い込みが人の思考を鈍らせて、戦いに順応できない者たちが増えてきている。だから聖女様には小さな常闇を見つけては、大きな常闇を想定してちゃんと閉じていって欲しい」
「そんなんで何が変わるっていうの?」
「穴がなくなれば、聖騎士は意味をなさなくなる。貴女は世界を平和にした聖女として人々から称えられる」
するとシェーンは呆然としながら私の言葉を繰り返して言った。
「穴がなくなれば、聖騎士の意味がなくなる……聖騎士が存在しなければ、私は自由?」
いや、聖騎士団が無くなるわけではないから、聖女が自由になるわけではない。
「そのハンカチがあれば、可能だよね?侍従には上手く言っておくから、どうかな?」
「わかったやる。だけど玉藻のことが……」
「それも対策をとるよ」
するとシェーンは驚いた顔をした後に、満面の笑みを浮かべてきた。
「本当に?私は世界に殺されない?」
「殺されないよ……」
私の答えに満足したシェーンは侍従に扮した茨木に連れられて元の部屋に戻っていった。
「その時には殺されないだろうけど、最終的に世界に食べられることには変わりないよ」
遠くに見えるシェーンの背中に向かって言った。
嘘は言ってはいないけど、言うべき言葉を言っていない自覚はある。
彼女に信用できる人がいればよかったのだけど、こんな薄っぺらい希望ぐらいしか、彼女にはすがるものはないのだから。
「ここで焚き火をして何を遊んでいるんだ?」
「ふぉ!」
突然、魔王様の気配が出現して、機嫌が悪い声が降ってきた。ヤバいギリギリだった。
だから、このどこでも相手のところに転移できる呪のアイテムは私には必要ないと思うのだよ。




