377 聖女様は未来視ができるのですよね?
「そう言えば、挨拶もまだだったね。私はアンジュ。親に教会に売られて、聖騎士をさせられている者だね。それから、隊長クラスや副隊長クラスには顔見知りはいるけど、仲がいいっていうのは同じ教会で育った騎士が多いかな?そんな感じ。それで貴女のことを教えて」
「……シェーンよ。聖女となるべく生まれてきたのが私よ」
おお!凄い!聖女になるために生まれてきたっていい切る自信が凄い!
「でもすっごく嫌だった。昔から何度もシュミレーションしてきたのよ!絶対に間違えてはいけない分岐を思い出して、書き留めて、生き残るためにはどうすればいいのかって、何度も何度も……でもここまで来てしまったらもう無理。私は世界に殺されるしかなくなってしまった」
うーん?どちらに転んでも最終的には世界に食べられてしまうシステムなのだけど。きっとゲームでは、めでたしめでたしで終わった後を語ることはないから、彼女は真実を知らないのだろう。
いや?地下のダンジョンに行けば自ずと、その見解に行き着くはず。なんだかおかしいなぁ。
「ねぇ、どうすれば貴女にとって良かったことなのか聞いていい?最終的にどう成りたかったのかも」
すると、シェーンは私に驚いたような視線を向けてきた。
あれ?私、おかしなことでも言った?
「貴女。アンジュだったわね。アンジュは私と話をしていて、頭がおかしいって言わないのね」
「ああ、聖女になるのが嫌だってところかな?教会で洗脳のように聖女様素晴らしい教育されたけど、結局聖女様って私達になにもしてくれないからね。空腹を満たしてくれるわけでもないし、貴族から買われることが避けられるわけでもないし、自由になれるわけでもないからね」
「……そういう意味ではないのだけど……現実主義ってことね……私が話すのは無くなってしまった未来のことね」
そう言ってシェーンは語りだした。まずは第一部隊長と仲良くすることだったと、しかし、裏切り者の第二部隊長と接触してしまった所為で思うように事が運べなかったと。
……ごめん。それはルディが第一部隊長さんの肋骨を折った所為で、第二部隊長さんの所為ではない。
あれ?裏切り者の第二部隊長?最近その名前を聞いたような?
シェーンは続けて第六部隊長と仲良くすることが大事だったと。正確には副隊長との顔つなぎをしてもらうために必要だった。
そして、第九部隊の管轄区域で、第十二部隊長と仲良くすることが大事だったと。
あれ?その時期って恐らく第十二部隊がほぼ壊滅している未来のはず。なぜ、そこに第十二部隊長さんが出てくるのだろう?
「第九部隊の管轄は第十二部隊長は関係ないよね?」
「関係ないけど、部下の半数を失ってしまって、部隊とは成り立たなくなった第十二部隊はヴァルトルクス隊長のみの力で、勝ち進んでいくのよ。第九部隊の件も第九部隊と第四部隊がほぼ壊滅まで追い込まれたから、ヴァルトルクス隊長の出撃が命令されたのよ」
「ああ、そんな感じね」
あのチートな聖痕は物体を砂塵に変えるものだと思われるから、聖痕の力が届けば、好戦的な首も幻覚を生み出す聖獣も殺せるだろう。
でも、今の第十二部隊長さんにはそこまでの力はないかなぁと思ってしまう。多分、失った者の多さに絶望したから引き出せた力だったのかもしれない。だってあのままだと、第十二部隊長さんもリザ姉もロゼも王都に居たままだったと思うしね。
「アンジュ。こんな話を聞いて私のことをおかしいって言わないのね」
「だって、私が聞きたいのはそういう話だからね」
「どういうこと?」
「だって、聖女様は未来が見えるのでしょう?」
「え?」
ゲームの知識を持っていることを、未来視ができることだと置き換えてみたけど、これは別に間違ってはいない。なぜなら、事前にその情報を持っていることには変わらないのだから。
「でも、今は悪い未来の方に進んでいるってことなんだよね?」
「……」
あれ?さっきまで意気揚々と語っていたのに、シェーンは固まってしまっている。
「扉の外には監視がいるけど、シェーンには他の監視も付けられているんだよ。そこから聞いた話では、王都が水没する未来があったんだよね。で、それを食い止めたはずなのに、更に悪い未来になったっていう理由を知りたいの。それを私に教えてくれる?」
「私のこんな話を信じてくれるの?」
二つの桜色の瞳からボトボトと涙をこぼしながらシェーンが呟いた。
これは聖騎士団の扱いにかなり問題がありそうだね。
思い当たるのが、さっきの茨木の行動だ。侍従に扮した茨木が、シェーンの腕を掴んで、部屋から出てきたのを、他の騎士たちはまたかという感じだったからだ。
これはシェーンが意味不明な言葉をを言うことがおかしいと周りが言って、それにシェーンが反発して、更に周りが問題児扱いをするという悪循環が発生してしまっているのかもしれない。
あとで侍従には女の子はお姫様扱いしろっと蹴飛ばしておこう。




