375 性格までそっくり
私は堂々と聖騎士団本部の中を歩いている、酒吞と茨木の後について行っている。朧に抱えられてだ。
私から見るとなんとも不思議な光景だった。金髪の大男と青い髪の麗人が廊下を歩いていると、誰も彼もが目を合わさないように下を向いて廊下の端によったり、事前に気がつけば、慌てて別の部屋に入ったりしている。
触らぬ神に祟りなしというぐらいに避けられている。
なんだろうな。はっきり言って団長は見た目に反して、可愛らしいと思うんだよね。お菓子好きなところとか、侍従にお使いを頼まれて哀愁を漂わせた背中を見かけたときとか。
だから多分これは侍従が、皆から避けられていると思うのだよ。
性格悪いしね。
そして私は朧の術で、姿を隠して移動している。だから、堂々と後ろをついていけるのだ。
今日は王族の人は王城に呼ばれているようなので、この術を看破できるルディも侍従もいない。
私を抱えている朧は、コソコソと前を歩く二人に向かって、どこに向うか指示を出している。
私は厳密に聖女の彼女が、どこに軟禁されているかしらないからね。
前方を歩く二人の足が止まった。そこは扉の前に二人の騎士が立っている。
「ここを開けてもらえますか?」
茨木が扮する侍従が扉の前で護衛している騎士に声をかける。
うん。ご苦労さまとかねぎらいの言葉もなく、用件を言うのって侍従らしい。
すると、扉の前に立っている男性の騎士が驚いたような顔をした。
「本日の午前中は予定があると言っておりませんでしたか?」
「ええ、その予定に聖女様を連れて行くことが急遽決まったのですよ。行動に問題があるにしても、見た目は聖女様ですから、話を円滑に進めるぐらいには役に立つでしょう」
茨木!その毒舌、侍従が言いそう!
一瞬、本人かと思ってしまった。
そして隣の団長はピクリとも動かない。全て侍従に任せている外向きの団長だ。
いや、団長が自ら動いたところを見たことがないなぁ。侍従の前にいるか後ろにいるかの違いだけだ。
そして鍵を開けられた扉から茨木だけが入っていった。
へぇー、団長は入らないんだ。
『いきなり来て何?今から外に出るの!やっとでられるの!!……え?ちょっとだけ?……痛い!自分で歩くわよ!……だから痛いって言っているじゃない!』
中から聖女の彼女の声が聞こえてきた。すると扉の前で護衛をしている二人の顔が、うんざりとした表情になる。
このやり取りはよくあることらしい。
叫び声と共に桜色の髪の少女が部屋からでてきた。
「黙れ」
酒吞が一言いうと、聖女の彼女は肩を震わせて押し黙った。と同時に護衛をしていた騎士の二人も背筋を伸ばして固まっている。
あれ?私はてっきり腹黒侍従が皆から避けられていると思っていたのだけど、団長の方が皆から恐れられている?
静かになった聖女の彼女を連れて行く侍従と団長。その二人に敬礼する騎士の二人。
バレてしまったときはごめんね。そのときは私がきちんと自首するから。連れ出したのは私だって。
心の中で騎士の二人に謝りながら、私は朧に連れられていった。
「ここに何があるっていうの?私をここに連れてきた意味ってなに!寒すぎるのだけど!」
到着した場所は雪が降り積もる森の中だった。
そして室内の温かなところから、着の身着のまま連れてこられた聖女の彼女の唇は青い。
ごめん。それは寒いよね。
私は身体の周りに体温調節の膜を張っているから、そこまで寒くはない。
「朧。術を解いて」
朧の腕から飛び降りながら、私は言った。と、同時に雪風が吹き込まないように、『反転の盾』を周りに展開させる。
「あ、貴女、銀髪の子」
……もしかして、私って子どもに見えている?いや、背が低いことは否定できないので、私はグチグチ反論することはないよ。
「子供のくせに、貴女、この人たちを顎で使える立場なの?」
イラッとした。けれど疑問に思って首を傾げる。
私が会ったのは別に聖騎士団の本部に侵入してきたときだけじゃない。
最初の顔合わせの会議室にも居たし、第九部隊の管轄地域が襲われたときに彼女がついていくと言い張ったときにも居たし、ルディが暴走したときにも私は居た。
将校と認識されていない?
「私のことは何と思っているの?」
私を何者かと思っているのか聞いてみた。すると、意外な答えが返ってきた。
「ああ、わかった。貴女、上官たちのお慰みの相手ね」




