374 あやかしの本領発揮
「自業自得?」
私は茨木が何を言っているのか分からず、首を傾げる。
「言葉には力がありますからね。特に己を示す名というものは、影響が大きく出るものです」
「まぁ、あれだ。名を与えた主に逆らったんだ。それで、用無しだといわれたら、今まで与えられていた力の反動がきても仕方がねぇな」
ようなし?用無し……いや、そんなことは言っていないよ。私は朧には頼まないと言っただけで、用無しだなんて言っていない。
「用無しだなんて言っていないよ」
「アンジュ様の頼みごとを断って、アンジュ様があの者には頼まないと言ったのであれば、それはお前など必要ないと言っているのも同じことですね」
そういう捉え方なの!
私は慌てて朧の方を向いて、言い訳をする。
「あれは、神父様から言われていたのだろうなって思ったから、神父様に逆らえないと思うから朧には言わないでおくねという意味だったのだよ!だから、用無しとかそういうわけではなくて……茨木!どうすればいいわけ?」
私がわたわたと言い訳をしていても、苦しそうな感じの朧に変化は見られず、茨木に助けを求めた。
残念ながら私には名付けとかの知識はない。
「許すと言えばいいのではないのですかね?」
「許すよ!」
別に朧は悪いことしてないと思うけど、このシステムもよくわからないなぁ。やっぱり、陰陽師の方が良かったと思うな。
すると朧は咳き込みながら、血の海の中……いや、雪が積もっている地面に崩れていった。
これはもしかして、息もままならない状態だったってこと?名付けって怖っ!
「普通は主に逆らうということはしないのですがねぇ」
茨木はそう言いながら朧に冷たい視線を向けている。これは黒狼という一族が王族に逆らえないように術が掛けられていることが問題なのだと思う。
そう、血の海の上に立つ呪い。
「腹ごしらえは済んだから、行くか。で、誰を連れ出すんだ?」
いつの間にか、火であぶられていた何の肉かわからない物体は消え去っていた。私が見た感じでは、まだ、半生だったような気がするけど、鬼だから別に半生の肉を食べても害はないのだろう。
それから、私が頼んだのは茨木に頼んだのだけど?
「え?酒吞、暴れには行かないよ。誰も知られずに人を連れ出したいことを、相談にきたのだよ」
「なに。興味津々なだけだ」
ああ、暇だってことだね。
「それは、どこの誰をどこから連れ出したいのですか?」
「茨木は行ったことないけど、聖騎士団の本部に軟禁されている聖女だね」
無理なのは承知だけど、私の場合は目立つと一発でどこの誰かだと分かってしまう。そう、銀髪が王様しか見たことがないというレアさだ。いや、元の神父様の地毛は銀髪だけど、見た目は金髪だからね。
「行ったことがありますから、問題ないですね」
「え?」
行ったことがある?聖騎士団の本部には見習い騎士が入ることは許されないって聞いたけど、間違いだった?
「こういう感じで如何ですか?」
茨木がそう言っている内に、茨木の姿がぼやけた。そして、私が茨木の姿をはっきりと認識できた瞬間、吹き出してしまう。
「ぶっ!!茨木!それで堂々と本部に行っていたの?」
「ええ」
私の言葉に応える茨木は、水色の髪を背中に流して、冬の空のような瞳を私に向けている。色合い的にはほぼ変わっていない。変わっているのはその容姿だ。
どうみても『侍従』だった。それも微妙に腹黒さが垣間見える人を見下した感がある綺麗な笑顔を浮かべている。
その笑顔もそっくりだ。
「だいたい、人が避けていくから問題ない」
その声に酒吞に視線を向けてみる。思わず口に手を当てて、笑い声を押し殺した。
「ぐっ!酒吞もそっくり」
金髪の隻眼の大男。それも白と金の微妙な塩梅の隊服を着ている。
「団長だね。違和感がないぐらい完璧だね」
「そうだろう?」
「そういう、ニヤニヤとした笑みを浮かべなければね」
団長の姿でニヤニヤされると悪どい感じが凄く増す。
でも、本人たちに会ってしまったらどうするのだろう?
「これ、本人がいると使えないよ」
「そこは問題ありません。本日は陛下に呼ばれて、王城に登城しております」
復活したらしい朧から説明された。
そうか、今日は上の二人もいないのか。
もしかして、絶好の日じゃない?好きにやりたい放題。
「主様。申し訳ございませんでした。この朧。今後二度と主様の意には逆らいませんので、どうか見捨てないでください」
……血の池の上で跪かれて言われると、私が無理難題を傲慢に押し付けているように見えてしまう。いや、他の人には見えないけど。王族ぐらいしか見えないけど……私が血反吐を吐くぐらい朧をこき使っているみたいじゃないか!!
私にどうこう言う前に、先にこの呪を解除するほうが先だよね!!




