372 今日は自由だ!
あの後、私はルディに連行されている途中で寝落ちした。ゆらゆらと揺れている振動に負けて、そのままぐぅーっと寝てしまった。
仕方が無いじゃない。夜半から夜叉の対応をしていたのだから。
そして私は爆睡し、起きたら丸一日経っていた。……おかしい!いつの間にか日付が変わっているじゃないか!
と翌朝、ルディに向って叫んだ。何故、夕方ぐらいに起こしてくれなかったのだと。
「部屋に戻って来た時に起こした。あのあとずっと聖痕を出しっぱなしだっただろう?だから聖痕をしまうように言ったら、聖痕をしまって、そのまま寝ていたな」
私は寝間着のままだけど、ルディはすでに着替えている。それもいつもの白い隊服ではない貴族っぽい服装だ。今日は何かあった?
それから、新月は月の聖女の力は使えないんじゃなかったの?
「太陽が昇っていたからだろう?」
ぐふっ!相変わらず、よく分からないシステムだ。
どうやら、ルディの話を聞くところによると、昨日の朝から聖女の彼女は部屋からの脱走を試みて暴れたらしい。何かよく分からない言葉を叫んでいたらしい。だけど、何を言っているかわからなかったらしい。
きっと日本語で叫んでいたのだろう。
「それから、今日は俺は兄上に呼ばれて王城に行ってくる」
「やった!」
はっ!思わず喜んでしまった。魔王様が無言で私を見下ろしてくる。まぁ、そういうことでいつもと違う格好をしていたようだ。
「アンジュ。昨日の説明がまだされていないのを忘れているよな」
瞳孔が開いた目で見下ろして、私が説明できないことを言わないでほしい。
これはどう話を変えればいいのかな?……はっ!
「一日飛んでしまったから、今日は美味しいご飯作って待っているね」
にこりと笑みを浮かべて言う。この笑顔は神父様に媚を売る時の笑顔だ。
しかし、神父様からは胡散臭い笑顔で、グサッとくる言葉が返ってくるけどね。
するとルディがふいっと顔を横に背ける。なに? これは新しいパターン?
ルディが口を押さえながらボソボソ言っている。何か『カワイイ』を連呼しているように聞こえなくもない。
そしてルディが、未だにベッドの上にいる私を抱きかかえて爆弾発言をしてきた。
「兄上から婚姻の許可をもらってくるからな」
「は?」
「明日にでも……」
「ちょっと待って!契約はあと半年ある!」
「何度も言っているが、あの契約書は一年以内と書かれている」
そうだった!!一年以上にならなければいいという契約書だった。
「許可をもらってくるから少し遅くなるかもしれないが、夕食の時間までには戻って来る」
ルディはそう言って、私の腕輪に鎖を巻いて、軽く私に口付けをして寝室を出ていった。
再びベッドに戻された私は頭を抱える。これは本気で明日にでも籍を入れかねない。だが、この生活が変わるかと言えば、何も変わらないだろう。
ルディが第十三部隊の隊長であり、私が第十三部隊の副部隊長……(仮)であることには変わりない。
うん。そう思えば、大したことがないように思えてきた。
あの白銀の王様がルディに王位を譲るとか言わないかぎり……いや、それは以前言っていた。
「ルディ!ちょっとそれは駄目だよ!」
そう言いながら、ルディの部屋の方に押し入れば、居たのは白い隊服を着たファルだった。
ファルは私の方を見た瞬間、唖然とした顔をしたかと思えば、呆れた表情をして一言呟く。
「『宿蔓』」
するとファルから緑の蔦が飛び出てきて、私をぐるぐる巻にして、その勢いのまま私は寝室の方に戻され、目の前で扉が閉められた。
「羞恥心を持てと言っているだろうが!」
扉の向こうからファルの叫び声が聞こえてきた。もろもろと崩れ去る蔦を払って、口元を拭ってみるが、よだれは垂れていない。
何も問題は無いはずだ。
「もしかして寝癖が酷いことに!」
「違う!今日は第十三部隊の方にはこなくていいからな!」
それだけを言ってファルの気配が遠ざかっていく。
……今日は自由だ!ふふふっ!この時を待っていた。まずは仲間を集めないといけない。
「朧。お願いがあるんだけどさぁ」
ルディとファルの目がなくなったと言っても、私に監視の目がなくなったわけではない。
そう、私には黒狼の朧の監視がついているのだ。
「アンジュ様から離れるという願いはお受けできません。それから先にお着替えを」
天井裏からそんな言葉が降ってきた。
わかっている。朧を巻き込む。それは計画の中に、入れておかないと始まらない。
しかし、私が起きたばっかりなのだから、寝間着のままなのは仕方が無いと思うのだけど?




