364 茨の毒
夜叉にゆっくりと歩み寄る酒吞。すると神父様と第十二部隊長さんが夜叉から距離を取った。
……私がここに待機している間、何があったのだろう?
ルディはそのまま夜叉に剣を振るい続けている。
うーん……正確には知らないけど、ルディは影か闇属性の聖痕だと思うんだよ。だから、剣ではなくて聖痕の力を使えばいいのに……って私が少し前に言った言葉の意味がわかっていなかったのかな?
違うな。そもそも忌避されている属性だから、使いこなせてないだけか。
「再戦だ!!」
そう言ってどこからともなく、大太刀を取り出した酒吞が、一刀両断するが如くに上段から振り下ろす。
酒吞が現れてから夜叉は酒吞のことを警戒していた。ならば、そこをつかせてもらおう。
私は頭の上にある聖痕を手に持って、右目の中にしまう。すると世界に闇が満ちた。
恐らく酒吞と夜叉にはこんな闇など関係ないだろう。遠くに燃えている火の光だけできっと十分だ。
私はドプッと地面の闇に沈み込む。
隙がないのなら、作れば良い。酒吞は夜叉にとって好敵手であり死角だ。
酒吞しか警戒していないのだ。ルディでさえ相手にしていない。
だったら、私が一矢を打ち込もう。
影を伝って移動し、大太刀を奮う酒吞の背後に飛び出し、右手を夜叉に突き出すように狙いを定める。
「『茨の毒』」
即席の茨の聖痕と毒の聖痕を合わせた技だ。
酒吞しか見ていない夜叉の首と剣を持つ右手に巻きつける。近くで見る夜叉は、肌の色が人とは逸脱しているからか、気味が悪かった。そしてその手に持つ剣は見慣れない片刃剣。先が湾曲しておりタルワールという剣に見える。
私の茨に動きを一瞬とめるも、左手で引きちぎろうとする。そこに酒吞が袈裟斬りするように右上段から左下にかけて、切り下ろした。
『――――――!!』
声無き悲鳴を上げる夜叉。強引に右手を振るい、首に巻き付けてあった茨を切りはずす。
そこまで確認した私は、闇の中で目を凝らして何が起きているのか確認しようとしている第十二部隊長さんの手をとって、再び影の中を移動し、先程いた場所に戻ってきた。
「聖女様が自ら動くほど我々は、力不足ですか?」
「聖女って呼ばないでください。ヴァルト様」
暗闇の中でも手を引っ張ったのが、私とわかったらしい。だけど、聖女って呼ばないで欲しいな。
私は第十二部隊長さんに言いながら、右目から光を放つ太陽の聖痕を再び取り出した。すると視界は広がり、負傷した左手で、右腕を押さえている夜叉が確認できる。
「こんな時に不躾ですみませんが、ヴァルト様の聖痕は何になりますか?」
夜叉の様子を見ながら、第十二部隊長さんに確認する。
属性攻撃で相性が悪いのだったら、属性を伴わない攻撃ならどうだ。
そう、私の毒の攻撃で、絡みついた右腕を溶かし落としたように。
「……」
答えてくれないか。
「ヴァルト様。そこにいる蛇が言うには……」
『青嵐です』
「……青嵐が言うには、夜叉に剣が通っていない理由が、神殺しの剣は水属性で、夜叉も水属性だからだそうです」
……何か夜叉の腕……増えていない?私が落とした腕はそのまま存在しているけど、二本追加されて酒吞と戦っている。
私の攻撃は無意味だった!!
やっぱり神殺しの剣じゃなくては駄目なのかな。それとも、腕が阿修羅みたいに複数あるタイプ?
「少し前に、使っていたと思うのですが、ただ剣を奮うのではなくて、ヴァルト様の聖痕の力を叩きつけることはできないのでしょうか?」
「それでもアレは弾き返していた。身を隠すところがないここでは、我々の方が圧倒的に不利だ」
弾き返す?私の聖痕の力は普通に影響を与えていたのに?
酒吞が最初の攻撃以降、火を使って居ないのはわかる。さっきまでは相侮の状況を作っていたからだ。
火侮水。
火が強すぎると、水の克制を受け付けず、逆に火が水に勝てるという状況をだ。
だったら何が問題?
酒吞と夜叉の戦いを観察する。闇が濃いくてはっきりとは認識できないけど、酒吞の攻撃を受けて、バランスを崩しながら夜叉は攻撃している。
酒吞の攻撃は通っている。
「青嵐。月影」
『何でありまするか。主よ』
『どのような事でも御命じください。主よ』
「あなた達の攻撃は夜叉に通る?」
恐らく、この世界のモノではない青嵐と月影に聞いてみる。何がどうなって精霊石という物から出てきたのかはわからないけど、中華文化は無いと思うので、彼らもまた異形の一種だろう。
それに普通に玄武の力と龍神の女将さんの力を言い当てたからね。
『ふむ。風と闇はどうであるか?青嵐』
『陰風で呑み込むか?月影よ』
ん?二人で相談している?
はっ!まさか二属性攻撃と強固な打撃が有効ってこと?
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(あらすじ)
気が付けば真っ暗闇の中、ガタガタと揺れる床。
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確か今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。
最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。
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