358 構成論を言わせてもらえなかった
「寒い」
頬に突き刺さるような冷たい風が吹き付けてくる。もう少しで日付が変わろうとしている時間帯だ。
空を見れば一面に星星が輝いている。今日は二つの月が二つとも新月という珍しい日だ。だから、余計に星が降ってきそうなほど、輝いている。実際に星が降ってくる光景を見た者からすれば、今の光景とダンジョンで見た光景が重なって見えそうな気がしてくる。
「アンジュ。皆が集まるまで、中に居てもいいって言っただろう?」
隣から、フルプレートアーマーが話しかけてきた。今思えば、この冷たい風を避けるには、重苦しい鎧を着たほうが良かったのかもしれない。
「ルディ。毛皮のコートを着ているから、そこまで寒くはないよ。ただ、耳が痛い」
あと、冷たい空気が通る鼻も痛い。
耳当てをしたいけど、周りの音を遮断する行為はしては駄目だという常識はわかっているから、我慢している。
ただでさえ、一人だけ鎧なんて着ないってわがままを言ってしまったからね。これ以上何か言うと、目が笑っていない神父様に笑顔でグチグチと言われそうだから、我慢する。
「じゃ、何をいっぱい持っているんだ?一人暖を取るための何かを持って来たんじゃないのか?」
第十三部隊の紋章入りのサーコートをまとった、フルプレートアーマーが言ってきた。いや、中身のファルが失礼なことを言ってきた。
確かに私は両手に紙袋を持っている。そんな一人で快適にするための物なんて何一つ入っていないよ。
「失礼だね。ファル様。この風を防ぎたかったら、結界を張るよ」
「いや、結界でこの風は防げないだろう?」
多分、普通の結界じゃ自然界の風は防げない。この辺りは考え方の問題だよね。
「ファルークス第十三副部隊長。アンジュの作る盾なら可能だと思います」
「あの盾ね。一度作り方を教えてもらったけど、全く理解できなかったもの」
第十二部隊の紋様が入ったサーコートをまとったフルプレートアーマーの二人が言う。
確かに一度リザ姉に聞かれて、説明をしたけど、私は別に変なことは言ってはいない。
「もしかして、空中を足場にする盾のことか?あれは結界じゃないだろう?いや、攻撃できる結界だったか?」
「あれで攻撃したのは、成り行きだってファル様は知っているよね!」
私が反転の盾で攻撃をしたのは神父様から結界しか使えないならどうするかという質問に答えただけだ。普通は投げつけるような使い方はしない。
「そもそも結界の構成は、どんな感じってところから違うんだよ」
「ほら、ファルークス第十三副部隊長がそんなことを言ったから、アンジュが構成論とかいうものを垂れ始めたじゃないですか。聞いても頭がパニックになるだけだから、やめてよね」
私が一般的な結界の構成と何が違うか話をしようと思ったら、ロゼに止められてしまった。
そんなにおかしなことは言ってはいないのになぁ。
「将校アンジュの意見を聞いてもよろしいでしょうか」
「ヴァルト様。敬語は必要ないです。それで何が聞きたいのですか?」
第十二部隊長さん。私の呼び方を普通にしてくれたのはいいのだけど、今度は敬語になっていた。
「今日でなければならない理由はなんだ?普通なら新月の夜戦は避けるべきだ」
今日、常闇を閉じると言ったのは神父様だからね。私が言ったわけじゃない。だけど、その理由はなんとなくわかる。恐らく月が関係する。
「神父様に聞かないと答えはわからないけど、新月の方が都合がいいんだろうね」
「都合がいい?戦うには適さないこの新月の夜が?」
うーん。私が予想を口にしてもいいのだけど……それでもいいかな?
「一つは常闇を閉じるには、一旦開かないといけないの。そうすると、第四部隊の管轄地域みたいに黒い鎖が飛び出してくると思うから、王都の人の目につかないように、今日がいいんだろうね」
多分このことが一番の理由だろう。王都の側であんな天を貫くような黒い鎖が複数現れたら、夜中でも王都中がパニックだ。
「一つは?」
第十二部隊長さんは、私が前置きに言った言葉が引っかかったらしい。だけど、もう一つの方は私には確証がないから、口にはできないなぁ。
ルディなら知っているかな?
私は表情が窺えない隣に立っているフルプレートアーマーを見上げる。
「ルディは神父様から何か聞いている?」
「再来週にある聖女お披露目パーティーの理由と同じだ。二つの月が新月の時は月の聖女の監視が今日は必要ないからな」
やはり月の聖女と名付けられているように月によって力を扱える量が変わってくるみたい。
今日が二つの月が新月ということは、再来週は珍しく二つの月がそろって満月だということだ。
その日に合わせて、月の聖女のお披露目パーティーをするらしい。……でも、聖女の彼女は力をすぐに使ってしまって、お披露目することできないじゃないのかな?




