357 酒吞頼みの作戦
「本当はヒュー様とアスト様の力を借りれないのかと思ったのだけど、第六部隊も別の常闇から出てきた魔物に手間取っているって聞いたから、諦めるよ」
ヒューとアストのすべてを否定する結界を用いればほんとに短時間で終わらせられると思ったのだけど、聖女の彼女に閉じてもらった常闇とは別の常闇から出てきた魔物との戦いで、部隊長さんと副部隊長である双子が対処にあたっているらしい。
基本的には部隊長は王都での常駐が決められているらしいから、部隊長で出るほどの魔物が現れたということだ。
「ということで、やる気満々の酒吞が森の中心部まで連れてきてくれるっていう作戦だね!」
「それシュテン頼みの作戦じゃないか!」
「だって、あれ見てみてよ。悪い顔してお酒飲んでいる酒吞の邪魔できる?」
「無理だな」
さっきから何も喋ることなく、お酒を飲み続けている酒吞は『クックックッ』と笑いながら、悪人も逃げ出すほどの悪い顔をしている。
あれは触れてはいけない部類だ。
「ワイバーンはいつでも上空に退避できるようにしておいて、中心部まできたら、皆で一斉攻撃を仕掛けて、弱らせる。すると多分そこに常闇が開くはず!」
「多分とか、はずっとか、曖昧なものは作戦と言わないぞ。アンジュ」
「ファル様、うるさい」
黒い女の人は不確定要素が大きすぎる。だけど、私は必ず出てくると確信はしている。
なぜなら、彼女は王妃であり聖女なのだ。その根源は民を守るというところがあると私はみている。
これはダンジョンに見せられた過去からそう思っただけで、その本質はわからないけれどね。
「不確定要素を入れるのも今回の作戦の内!あと、私は動きを阻害する鎧は着ないからね!森の中を重い鎧を着て走り回るってしたくないから」
私はついでと言わんばかりに、鎧を着ない宣言をした。着てもいいのだけど、動きを阻害するし、視界を狭める鎧は着たくない。
「アンジュはいいですよ。常闇を閉じることに専念して欲しいですからね」
おお!神父様から了承が得られた。そうなれば、誰も文句を言わないだろう。
「はい!ということで時間まで解散!集合はここの玄関前で、時間は2300で宜しく」
それまで私は仮眠をとろうと、ルディの膝の上から降りて、床の上に立つ。すると、おずおずという感じでロゼが手を上げてきた。
「どうしましたか?ロゼ」
「リュミエール神父様。私は前回のときも御役に立てませんでしたので、今回の作戦は不参加でお願いします」
「私も、ちょっと神様相手は無理ですわ」
ロゼとリゼ姉が作戦には参加しないと言ってきた。まぁ、無理して戦いに参加しなくてもいいよ。
「将校ロゼ。貴女の武器は誰に与えられたものですか?将校リザネイエ。聖騎士とは何かと問いたださないといけませんか?」
胡散臭い笑顔の神父様がロゼとリザ姉に言う。それも威圧を込めてだ。
いや、イヤイヤならが参加して、怖気付いて足手まといになられても困るから無理に参加しなくてもいいよ。
「神父様。私は……」
「アンジュは黙っていなさい」
「はい」
駄目だ。これは本気で怒っている神父様だ。
ロゼとリザ姉を見ると、異様に背筋を伸ばしているものの、ロゼは若干涙目だ。
「聖騎士として聖剣を手にしたのであれば、死ぬまで聖騎士として在りなさい」
「「はっ!」」
これは聖女を守るために戦って死ねと言われていることに等しい。私はこういうのは嫌だな。
ん?そうか……いいことを思いついた!
「話が終わったのなら、宿舎の部屋に戻っていいかな?」
「いいですが、先程ニヤリと笑った理由を言ってからです。何を思いついたのでしょうか?」
この悪魔神父、侮れない。私の考えを読もうとしないでほしい。
「いやいや来るって言うなら、守り石を作ろうと思ってね。ああ、王様に作ったような強力なやつじゃなくて、一度リザ姉に渡した物よりちょっと強い守り石」
すると神父様は無言で立ち上がって、私の方に来た。何?その無言が何気に怖いのだけど……。
神父様は首元から鎖を引っ張りだしてきて、それを私に差し出してきた。
「では、これにお願いできますか?」
……鎖の先に赤い石がついた指輪があるのだけど?ちらりとファルに視線を向けると、ファルは自分の物じゃないアピールを無言する。
これどう見てもルディの母親の持ち物だったものだよね!
神父様、初恋を引きずりすぎじゃない?
「神父様。守り石は役目を終えると、壊れてしまうから、壊れてもいい物の方がいいよ」
「それなら、余計にこれの方がいいですね」
どういう意味で言われたの!
これ以上聞き出そうにも、横からビシビシ感じるルディの殺気の方が気になって、それどころじゃない。
「私より先にアンジュの守り石を得ようとするなんて、ご自分の立場をわきまえて欲しいものですね。リュミエール神父」
何故に魔王様が降臨されてしまったのだ!
立ち上がった魔王様は胡散臭い笑顔で神父様を睨み付けているのだった。




