355 他の騎士団と仲が悪すぎ
「それでは報告会を始めましょうか」
結局、食事が終わってから、暖炉の前のソファーがあるスペースに戻って、お茶を飲みながら、情報交換をすることになった。
神父様はいつもはファルが座っているソファーに腰をおろして発言する。
「ではファルークス。報告を」
指名されたファルはルディの斜め後ろに立っている。そう、この場で珍しく立っているのだ。因みにルディはいつもの一人掛けのソファーに座って私を膝の上に抱えていた。
「はい。聖騎士団の敷地内にあたる森の中を調べましたが、魔物が隠れ潜んでいる様子はなく、他に常闇が存在することもありませんでした」
何もなかった?人が通れるほどの常闇が開いて、モヤも辺りに漏れ出していたのに?
「風景に同化しているとか、なかったの?」
「なんだよ。その風景に同化って、普通は魔物がいればわかるだろう」
ファルたちは視覚に見える魔物しか認識していなかった。
普通であればそれでいいのだけど、王都の外側に幻狼がいたという事実がある。
これは見えない敵も想定内にいれるべきだった。
いや、見えないモノを捉える目がないと無理だ。
別に特殊能力ではなく、野菜畑を見て美味しそうな野菜がなっていると見る目と、毛虫に食べられていると害虫を見つけられる目の違いということだ。
「これは後で私直々、訓練をしてあげましょう」
「え?」
「ひっ!」
「……業務に支障がない程度にお願いしますわ」
神父様の言葉に驚きと悲鳴と困ったような声が重なった。
多分毛皮をかぶった神父様が見れるよ。
「さて、我々の方の報告を。アンジュ」
「え?わたし?」
私はルディに捕獲されて、幻狼を氷漬けにしたら怒られて、解凍しても怒られただけだよ。
「そういうのはルディがするべきだと思う」
「俺はヤシャというモノの説明ができない」
ああ、異形の説明ね。……それ以外の説明はできるはず……まぁ、いいけど。
「まずは幻狼ね。日が暮れるまで北の森を見て回ったけど、殆どを酒吞と茨木が倒してしまったみたいだから、これ以上の被害はないと思う。あと幻狼は風景と同化系だから、見ようとしないと見えないからね」
ルディの斜め後ろに立っているファルに、バカを見る視線を向けながら言った。
「その目は何だ?アンジュ」
「別に……あと、常闇だけど思った以上にボコボコと開いていた。多分本来の常闇の大きさは北の森全体ぐらいの大きさはあったんじゃないのかなぁ?」
あの夜叉が出てきた常闇を探すために、手分けして森の中を探索した結果。戦闘の跡らしき場所に常闇が存在していた。北に抜ける街道から離れていたから、人の目にはつかなかったのだろうけど、本当に半年は放置し続けられたのかもしれない。
だから結局、どこの常闇からあの夜叉が出てきたのかわからなかった。
「北の森全体!」
「大き過ぎるわ」
北の森の常闇探索に混じらなかったリザ姉とロゼは第十二部隊長さんの背後で、困惑の表情を浮かべている。
因みに第十二部隊長さんは神父様の向かい側、暖炉を背にして優雅に座って、食後のお茶を嗜んでいる。
同じ貴族出身のファルと違って品というものが、にじみ出ているよね。
ファルと違って。
「ちょっと待て、常闇を閉じるのに一旦開かなければならないと言っていたよな。アンジュ」
そのファルは慌てた感じで、私に聞いてきた。
「そうだね。一旦全部開くよ。そのために人々が寝静まった夜中に開くんじゃない」
天を貫く黒い鎖を人の目にさらすわけにはいかない。だけど、問題は北の外壁に常駐している騎士たちだね。
「北の森全体だと聖騎士団の施設の一部と北門も呑み込まれるってことか?」
そう言われて考えてみると、このぽつんと一軒家も北の森の一部に建っているね。そうすると、常闇に呑まれてしまうのかな?
「その場に世界の糧となるモノがいれば、呑まれるでしょうね」
神父様が、世界の力になるものであるなら、常闇に捕らわれると答えた。ということは、世界の力である聖質持ちや魔力を持っている者、そして世界に入り込んだ異形以外は呑み込まれないと……確かに常闇を閉じた場所の地面はあったし、森もあった。
では建物も残る可能性は大きい。
「あと、陛下の勅命で北の森一帯には人の侵入の禁止令を出しています。それから門兵や見張りも聖騎士団の夜の訓練に巻き込まれるので退避するように命令がでていますよ」
神父様は王城の地下のダンジョンの報告に行くついでに、北の森の常闇を閉じるための対策を打ってくれていたらしい。
流石、仕事が早いね。
「もし、この命令を破って命を落としても、聖騎士団は抗議を受け付けないとも言っています」
神父様。ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべたまま、ドスが効いた声で言わないで欲しい。どれだけ他の騎士団と仲が悪いの!




