351 見えかけているよ
「今すぐ戦いたい酒吞には悪いけど、今回は条件が悪いと思う。問題点がいくつかあると思うのだけど、どうかな?」
私は今すぐ戦うのは得策ではないと考えた。今は人を食べていることで意識がそっちに行っているから、隙をつけるかもしれない。けれど、こっちが情報を得られる時間でもある。
「普通に強いだろうな。神殺しで倒せるかどうか」
ルディは遠目から背中しか見えない夜叉の強さを把握している。
世界の力と異界の神の力で創られた剣をもってしても倒しきれるかわからないと判断した。それは以前戦った龍神のお……おかみさんと同等だと感じたということ。
「あのモノが出てきた常闇が、王都の側にあるのはいただけませんね。そこを中心に封じてもらいましょうか」
神父様。常闇は閉じるつもりだけど、多分今回も漆黒の鎖が出現すると思うから、その辺りも、どうするか決めないといけないと思う。
「森という場所が問題だな。周りの木々が邪魔だ。視界が悪い」
第十二部隊長さんは森という場所が問題だと挙げた。まぁ、相手も緑の皮膚だから森に溶け込みやすいというのもある。
「んなもん!ぶっ倒せばいいだけだ!」
酒吞はそういうだろうね。わかっていたよ。だけど、以前龍神のおかみさんのときは、神殺しは恐ろしいと言っていたけど、夜叉はいいんだ。
「ねぇ。夜叉も神だったと思うけど、神殺しして大丈夫?」
「……」
何故に、驚いたような顔をして私の方をみてくるわけ?確か、鬼神だったと思うけど?
「そうですね。天竺では夜叉と呼ばれているとか。酒吞と同じで暴れられればいいという種族ですね」
「おい、茨木。俺は知らねぇが?」
「玉藻御前が嫌そうな顔をして、話していましたよ。何か過去にあったのでしょうね」
そして酒吞は何かを考えるように腕を組んだまま唸りだした。
「……やっぱり、ムカつくからぶっ倒す!」
感情が優先だった。まぁ、倒す倒せないにしろ、ある程度は抵抗力を落としておかないと、常闇ごと排除できない。
「アンジュ。あれが神なのですか?神には見えませんよ」
「また、神なのか!」
「これでは本当に神殺しでないと倒せないということか」
三人から一斉に聞かれたけど、アレが神なのかと言われると、私的には鬼じゃないって感じ。
「……大丈夫。常闇に食べさせるのであれば、弱らせるだけでいい」
私は遠い目をして言った。多分、今回も黒い女性が出てきそうな気がする。龍神のおかみさん並みに力がありそうだからね。
「さて、問題点は出たようだね!」
「アンジュ。答えてないが?」
「ルディ。暴れることが好きな神さまだね!」
私はへろりと笑って、右手の親指を立てた。
「暴れると王都も被害を受けるかもね!」
「それは戦わずに、そのまま常闇に呑み込ませた方がいいということですか?」
神父様が理想的なことを言ってきたけど、これは理想であって、現実的じゃない。なぜなら、魔力のパテで埋められた空間の裏側にある常闇の中心点に相手を誘い出してこそ、できることだからだ。
「ということだから、大きめの常闇を探しながら、作戦を考えた方がいいと思います」
「あ、それでしたら、ここにくる途中にありましたよ。一里ほどの大きさでしたね」
茨木が見つけてくれていた。一里……一里って四km程度……いや、違った。茨木が言う一里は三百歩だったはず。
余計に大きさがわからなくなった。多分、大きい。玄武がすっぽり入る、泉の大きさだったからね。
「うん。見に行ってみようか」
「アマテラス。俺はアイツと戦いたい!」
好戦的に緑色の筋肉ダルマの背中を睨みつけている酒吞は、私の意見に反対のようだ。いや、反対というより今すぐ暴れたいということなのだろう。
「酒吞。今晩にでも戦わせてあげるよ。それから、見えかけているよ」
私は頭を指して、その後に茨木に視線を向けた。
「場所はこっちです」
茨木がそう言って、王都の方を指して歩き出す。すると、神父様はチートな結界を解いて、茨木のあとについて行った。
酒吞の額から生えかけている赤い角は見なかったことにしてくれたらしい。
悪魔神父はスルー力も高かった。
しかし、第十二部隊長さんはそうではなかった。酒吞の額に生えかけている赤い角をガン見している。
「あ、すまねぇ」
「気をつけてね」
角を隠して、酒吞は茨木の方に進んでいく。そして、第十二部隊長さんには口元に人指を持っていって、黙っているように示唆した。その後、ルディについて行くように肩を叩いて、進むように促したのだった。
夜叉から距離が遠く離れたところで、ルディが口を開く。
「アンジュ。今思ったが、酒吞たちもアレと一緒なのか?」
ルディがボソリと聞いてきた。いや、一緒じゃないし、勝手に神格化したら駄目だよ。
「二人の自己紹介は最初にしたよね?」
ファルと一緒に聞いているはずなので、覚えていなければ、ファルに聞けばいい。




