342 しつこいと嫌われる
寒い。まだ真冬本番っていうわけではないのに、王都の街には冷たい風が吹き付けている。
私は白い隊服の上に、厚めのコートを着込んで、森の中を移動している。
……歩いているとは言わない。移動しているのだ。
「ルディ。自分で歩くって言っているのだけど?」
そう、何故かルディに抱えられて、王都の北側に広がっている森の中を歩いている。
ここはまだ、聖騎士団の敷地内だ。はっきり言って安全地帯と言っていい。
「アンジュを抱えていたのに、鎖に攫われていってしまったじゃないか」
「それは既に黒い鎖に捕まっていたから、引きずられただけだね」
ルディは王城の地下の二十九階層で、私が常闇の中に引きずり込まれそうになったことが、トラウマになっているのか。
私を抱えている力加減がおかしくなっていた。
微妙にルディの腕がお腹に食い込んでいる。
「少し、力を緩めて欲しい」
「いやだ」
先程から、この攻防を続けている。
「じゃぁ、ロゼに結界を張ってもらいながら、私と手を繋ぐ?」
私の状態を見かねて、リザ姉が助け舟を出してくれた。そう、今回は常闇を探す為に第十二部隊からリザ姉とロゼと第十二部隊長さんに、助っ人を頼んだのだ。どんな小さな常闇でもいいので、見つけて欲しいと。
「リザネイエ第十二副部隊長。それは必要ない」
リザ姉が出してくれた助け舟をルディはぶった切る。いや、私はリザ姉と手を繋いで歩きたい。ちょっとお腹が苦しい。
「第十三部隊長。あまりしつこくアンジュに構うと、ゼクトデュナミスみたいに嫌われますよ」
ロゼ。何故ここでゼクトなんたらかんたらの名前が出てくるわけ?
「あら?聞いたことあるような名前ね。その子誰なのかしら?」
「エヴォリュシオン家の三男だ」
第十二部隊長がリザ姉の質問に答える。私は誰と聞かれても、偉そうなお貴族様の坊っちゃんとしか答えられない。
「ああ、第六副部隊長たちの弟さんね」
……え?第六副部隊長の弟?あのゼクトなんたらかんたらが?
「ちょっと待って!あのゼクトなんたらかんたらって、ヒュー様とアスト様の弟だったの!」
衝撃の事実!双子のヒューとアストの弟だったなんて!
え?全然似てないけど?強いて言うなら金髪ぐらい?
「ブハッ!何だそれ!なんたらかんたらって!」
突然、ルディの隣りで歩いているファルが吹き出して、ヒィーヒィーと笑い出した。どこに笑うツボがあったわけ?
「アンジュは、いつも絡んでくるゼクトデュナミスの名前がわからないから、そんな感じで呼んでましたね」
ロゼが説明してくれたけど、わからないというか聞き取れないだけだからね。
いつも『おれはゼクトなんたらかんたらだからな!俺に付き従っていればいいのだ』とか偉そうに言っていたから、それが頭の中に残っているだけ。
「いつも絡んでくるってなんだ?アイツだよな。アンジュに腕を切られたヤツ。俺の手で始末しておけばよかったな」
いや……あれは第一部隊長の許可もあったし、神父様に色目を使っているとか恐ろしいことを言ったし、色々言いがかりをつけてくるのも鬱陶しいと思っていたのもあったからだね。
ルディが手を出すと、再起不能になりそうだから避けた方がいいと思う。
「本当にアイツ馬鹿だよね。強引にアンジュにつきまとって、嫌われていたから」
「ヒューゲルボルカとアストヴィエントに始末しておくように言っておこう」
……ルディ。多分ロゼは、ルディもあまり変わらないと、遠回しに言っているんだよ。
後ろを歩いているロゼの顔を確認してみると、全然わかってくれないという顔をしている。
ルディには、直接はっきりと言わないと駄目だと思う。いや、否定されるな。
「あの……副隊長。確認してもいいっすか?」
ファルの後ろからついてきているティオがおずおずと言ってきた。今回は第十三部隊の四人の騎士たちも人員増加のため、駆り出されている。
「どうした?」
「いや、なんでシュテンとイバラキが先行して暴れているんっすか?」
酒吞と茨木と朧はここには居ない。彼らはこの先に広がっている王都の外側の森の中に、うろついている魔物の駆除をしてもらっている。
「ああ、暴れ足りなかったから、身体を動かしたいんだと」
「なんっすか?それ。極秘の任務に行っていたってヤツっすか?」
私達が聖騎士団を離れていたのは極秘任務ということになっている……らしい。単独行動が許された第十三部隊だから、不在が続いても不審に思われなかった。
「最近、色々物騒ですものね。他の部隊は魔物や異形の対応に手が回っていないと聞きますもの」
ミレーが最近の他の部隊の情報を教えてくれた。……あれ?ここに第十二部隊長さんがいるけどいいのかな?




