332 奪えばいい
私が目にしたものは、黒い鎖が私の『反転の盾』に弾かれて、金色に輝いている姿だった。
それも鎖自体は繋がっているため、術者の意志によって再び『反転の盾』に向かって伸びてきている。
黒い鎖と金色の鎖が同時に、向かってきているのだ。
流石にすべてを跳ね返すように作った盾だけれども、手のひらサイズの六角形の透明な盾に、同時に二属性から攻撃されるとバグる。いや、属性の変換が出来ずにヒビが入っている。
まさかそんな小さな範囲で、二属性攻撃される想定なんてしていない。
「『樹海!』」
ファルが復活したらしい。私の盾が壊れる前に、聖剣で再び木を生やして蓋をしてくれたため事なきを得たが、それも一時のことだ。
そして私の両手が、ガクンと引っ張っていた鎖から解放された。視線を上に向けると何やら怒っている魔王様が降臨されている。
あれ? 私、何かしでかした?
「アンジュ。優先順位を間違えてはいけませんよ」
視線を横に向けると目が笑っていない笑顔を浮かべた神父様がいる。……これは怒っている神父様だ。
私は自分の身の危険を感じて、神父様とルディから距離を取る……取れなかった。
私が動くより早くルディに捕まってしまったのだ。
へらりと笑って私は、ここは怒っている場合ではないと先手を打つ。
「背後からバキバキと音が鳴っているから、早くここから移動した方がいいと思う」
そう、既に私の反転の盾を突破して、鎖がファルが出した木の壁を攻撃してきているのだ。こんなところに留まっている場合ではない。
「ファルークス。先程、回復したので、力は万全ですよね。もっと強固な結界を作り出しなさい」
神父様。流石に無茶振りだと思う。そこまでここに留まる必要はないよね。
「『堅牢絶駕』」
……全く聞き取れない言葉が、ファルから聞こえてきた。いや、二人からの圧力が酷くて、ファルの言葉なんて聞く余裕がないという状況だ。
すると後方の石の階段から茨の蔦が生えてきたのだ。
一瞬私は何もしていないぞと思ったけど、ファルは緑の手の聖痕を持っているから、私の茨の聖痕の力も含まれているのだろう。
その茨が互いが互いに絡みつくように伸びて行き、隙間なく埋め尽くされたと思えば、枯れた植物のように色を無くした。いや、金属のような強固さをもった壁になった。
……ナニコレ? 私の聖痕でこれできる? 茨で壁は作れても、この金属のような強固さを作り出せないと思う。
「アンジュ。言っておくが、いざとなれば、リュミエール神父は捨てておけ」
ルディが酷いことを言う。いや、それは駄目だ。全属性を使える神父様は戦力として大事だ。
「アンジュ。聖騎士は聖女を守ってこその聖騎士です。誰が犠牲になろうとも、聖女が聖騎士をかばうことはありません」
神父様も酷いことを言う。誰かを犠牲にしてここから出られても、それはきっと私は後悔するだろう。
なぜ、私はダンジョンに行きたいと言ってしまったのかと。
「ふん! 今までの聖女はそうかも知れないけど、私自身も聖騎士なんだからね! こんなところで、誰かを犠牲になんて絶対にしないからね!」
私を捕獲している魔王化しているルディに、そして怒っている神父様に向かって言った。
今までの聖騎士を頼るしかない聖女と同じ様な扱いはしないで欲しいと。
そして、誰かを犠牲にすることは、絶対にないと。
「それに、さっきのでわかったけど、死の鎖は元々太陽の聖痕に付随するものだった」
そう、反転の盾で黒い鎖が変換された姿は、金色の鎖だった。あの私と同じ太陽の聖痕を掲げた、聖王が使っていた金色の鎖だ。
「術の譲渡か略奪が、可能だってことだよね!」
「アンジュ……まさか」
「それは仮説であって、ここで検証することは駄目ですよ」
「いつも思うが、アンジュの発想は飛びすぎているんだよな」
「クククッ。やっぱりおもしれぇーなぁ。アマテラスは」
「良いですね。流石はアンジュ様です」
口々に好き勝手に言ってくれるけど、現状的に一番問題なのが、黒い鎖に絡まれて、死に誘われることだ。これは避けないといけない。
だったら、その鎖を奪ってしまえば、何もかも解決するということだ。
いや根本的な解決にはならないけど、現状での対策としては絶対的に有効だ。鎖を奪ってしまえば、手が出せなくなるはずだから。
「鎖を奪って私の物にしてもいいよね!」
「止めるんだ。アンジュ」
「止めなさい。アンジュ」
何故に二人して止める。とても良い案んではないか。
「アンジュが、鎖に囚われるのが先だと思う」
……その辺は運任せっということで。神父様、何故にルディの言葉に頷いているの!




