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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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330 常闇から出てきたモノ


「逃げ場所!心理的には穴の中なのだけど!黒いモヤが居座っているから駄目だ!」


 地響きが鳴り響きながら、高台がこちらに向かってくるのを見ながら叫ぶ。ここの幻覚は肉体に影響を及ぼす。このままここに居座ると絶対に圧死する。


「神父様。二十六階層で使ったやつ使っていい?」


 ここは次の階層に続く階段に滑り込むしかない。

 私は私の魔力を消費していいか確認を取る。あと二十八階層と二十九階層だけだ。使ってもまだ余裕があるはず。


「アンジュの魔術は切り札です。シュレイン!」

「はい!」


 神父様は私の魔術が切り札だと言った。まぁ手札は多いだろう。

 そして神父様がルディの名を呼ぶと、ルディは私を抱え治す。そして前方に手をかざす。


「『闇の侵食(ブライウィーゼ)』」


 聞いたことが無い術がルディから紡がれた。すると一気に地面に闇が広がる。

 一瞬常闇が広がったと勘違いしてしまったほどだ。


 闇が広がったところから徐々に石の床が見えてきた。そして常闇が広がっていた向こう側に地下に続く穴が見えた。見えたけど……


「手前に常闇がある」


 モヤがあるところに人が一人分通れそうな黒い常闇が口を空けていた。こういう罠があるから、油断できない。


「駆け抜けますよ!ファルークス」

「『翠鳥縛(ヴェルアシーレ)』」


 ファルが聖剣の杖を掲げて、常闇がある場所にむかって緑の鳥を飛ばした。

 百羽以上の緑の鳥がモヤを攻撃しだす。


「行きますよ」


 神父様の声となんとも言えない悲鳴が響き渡る。私はファルの攻撃と同時に走りだしたルディに抱えられ、次の階層の階段に向かう。

 私はすれ違いざまに黒いモヤに視線を向ける。ん?何か視線を感じる。あ……


「鎖が来る!」


 黒い常闇から黒い鎖の端が見えた。すると神父様が常闇と私達の間に入って、勇者の剣を抜く。


「『光炎万丈(フランティース)』」


 辺りに光が満ち、鳥に襲われている黒いモヤを常闇ごと燃やす勢いの炎が立ち上った。


 それにより、悲鳴の声が更に大きくなり人が一人通れるほどの大きさの常闇が広がった。なんかヤバイ気がする。


「早く階段に向かって閉じて!何かヤバイものがくる!」


 私が叫ぶと同時にルディが階段に身を投じ、次々と皆が飛び込んできた。


「『樹海(シルメーア)!』」


 ファルが聖剣で作り出した木々で蓋をしていく隙間から見えたものは、皮膚も髪も黒い人がこちらを身ていた。

 その人物は異様に目立つ赤い目を向けていたが、その姿は黒狐の王妃の姿ではなかった。


「誰だよ!!」


 私の叫び声が閉じていく木々の間を抜けていったのだった。


「ここに来て予想外!あれ誰?ねぇ、あの黒い人見えた人いる?」


 振り返って皆を見てみみると、誰も答えてくれなかった。また、私だけ見えている!


「何が見えたのだ?アンジュ」

「髪も皮膚も黒いのに目だけが異様に……いや目というか眼球が全部赤い目だった。気味が悪い人」

「アンジュ。それは人だったのですか?」


 神父様がそもそものことを聞いてきた。人かと問われればよくわからないけど。形は人の姿をしていた。


「シルエットには頭の耳も無かったし、背後に尻尾があるように見えなかった。女性の形はしていた」


 身体の曲線は女性の姿をしていた。でも黒狐の王妃の姿をしていなかった。でもそれが……


「あれがきっと鎖を放ち、人を食らうものだ」


 ああ、だからそういうことか。


「妖怪の酒吞と茨木に見えていた黒狐の王妃は、恐らく残滓。どちらかと言えばもののけに近い存在。だから私にはモヤにしか見えなかった」


 くそぉ。私はてっきり世界と呼んでいたものの元は、常闇に落とされた黒狐の王妃だと思っていたのに、ここに来て新たな存在が出てきた。


「あ……ヤバイ。攻撃されている」


 ファルから焦ったような声が聞こえてきた。

 攻撃されている?まさかファルの聖剣の力で出した木の壁を壊そうとしている?


「もしかして、本格的に攻撃してきた?」


 私達があまりにも死の鎖に囚われないから。


「アンジュ。回復薬はあと何本ありますか?」

「一人三本を想定していたから、十八本もってきている。残り十五本」

「一本ください」


 一本欲しいと言った神父様はそこまで力を使っていないのに、どうしたのだろうと思いながら、ルディに下ろしてもらった。背中に背負っているリュックから小瓶を一本出して神父様に渡した。

 すると神父様は小瓶の蓋を開けて素早く、ヤバイヤバイと言っているファルの口に突っ込む。

 悪魔神父はやっぱり悪魔だった。飲まないと拒否をしていたファルに強引に薄めれば回復薬を飲ませたのだ。


「ぐあぁ!死ぬ!死ぬ!」


 喉元を押さえて、死ぬと叫んでいるファルを酒吞に担いでいくように指示している神父様。


「いいですか。二十八階層は駆け抜けましょう。シュレインいいですね」

「わかりました。リュミエール神父」


 ルディは神父様の言葉に返事をしながら、可哀想な者を見る目をファルに向けている。


 ファルは死ぬ死ぬと言いながらも、階層を遮断している蓋の木々を増やしている。これは今もここに近づこうと攻撃されているのだろう。


「イバラキが先行してください。そして私が殿(しんがり)を務めましょう」


 ここからは後ろから来る存在から逃げ切れるかが肝となると思われる。あれに勝てるかと聞かれれば、はっきり言ってどういう存在かわからないので、全くわからない。


 わからないことが、きっと恐怖に繋がっていくのかもしれない。だからあの正体を知るには神父様は二十九階層になると睨んでいることが窺える。

 そこまでは、突っ走ろうと提案しているのだ。


 はっきり言って、生きて戻れるかどうかの問題になってきている。誰も口にはしないけれど、ひしひしとそのことには気がついているはずだ。


 二十七階層の方からバキバキと木が破壊される音が近づいてきている。


「ファルークスはこの通路を封鎖しなさい」

「わかりました……ゴホッ」


 涙声のファルが答えた。そうか二十七階層と二十八階層を繋ぐ階段をファルの聖剣の力で出した木々で、埋め尽くして足止めをしようという作戦か。



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