328 まどろっこしい
「黒い鎖が出てきた!早く次の階層の階段に!」
私の言葉に神父様はちらりと上を見上げ、方向を修正し、次の階層への階段にむかってまっすぐに進む進路に変えた。やはり、今の状態の黒い鎖は神父様には見えているようだ。
「ファルークス!階段に入れば直ぐに塞ぎなさい」
そう言って神父様は階段に飛び込み、勇者の剣のような光る剣を天井に向かって振るった。
すると放たれた鎖は途中で斬られ、その間に皆が次の階層へ続く階段に身を投じることができた。
「『樹海!』」
ファルの聖剣によって階段に蓋がされ、二十六階層から遮断される。
様子を見るけど、ファルの聖痕の木が密集して蓋をした隙間から鎖が入ってくる様子はない。
やはり、異界の神の力と取り込んだ聖剣が世界に対処する方法になり得るようだ。
「神父様。一度攻撃した後の黒い鎖が見えているって感じ?」
「そうですね」
そうか。最初の黒いモヤの鎖は、生者を獲物として印をつける鎖。攻撃した後の鎖は死を宣告する鎖。囚われると恐らく死が与えられるのだろう。
「うーん?次から、ああなった場合は一度攻撃した方がいい?」
「時と場合によりますね。魔力の消費を抑えられるのであれば、それに越したことはありませんよ」
力の温存か。回復が私の、毒だけど回復薬しかないからね。結局ファルは飲んではくれなかった。
ルディは私の口移しならとか、ふざけたことを言ったから、口の中に回復薬を突っ込んでやった。
だから、ファル以外は魔力が多少は使える。でも、元々魔力の保有量が多い人たちだから、結局半分程度しか回復しなかったのが、ネックだね。
次の階層も臨機応変という感じか。
「それじゃ二十七階層に行こうか」
二十七階層。また王都に戻ってきた。
そして今回は前方に、獅子王と太陽の聖痕を掲げた男性に、月の聖女がいる。
なんという組み合わせなのだろう。
「あの獣王は聖女の力を使おうとしているのか?」
ルディがトゲのある言い方をした。でも、そういうことだろう。三人は目の前に存在する巨大な常闇を前にして、何かを話しながら立っている。
小声で聞こえないが、元々言葉がバグっているので、わからないからどうでもいいか。
「でも結局閉じなかったから、このダンジョンがあるんだよね」
恐らく、この階層の話は私達の検証があっているかどうかがわかるというもの。
そして、聖女は天に向かって祈りだした。それにしても、ここが閉じなかった理由はなんだろう?
この聖女は先程、常闇を閉じていたから、聖女の力としては疑いようがない。
「やっぱり転移が問題だった?」
「九尾の黒狐が落ちていったのが問題じゃねぇのか?アレは妖狐だろう?怖ぇよな」
酒吞がニヤニヤしながら言っている。怖いと言いながら、笑っている。
やはり鍵は黒狐の王妃か。ん?妖狐?
「あれって妖怪?」
「妖気は感じませんでしたが、九尾の黒狐が変化していますよね」
茨木が黒狐が妖狐に変化していると言った。それは獅子王への恨みだろうか。
今の状況だと黒狐の王妃イコール世界ということになってしまう。だけど、今の状況だけでは、黒狐の王妃は獅子王個人を恨んでいるようにしか見えない。
「うーん?全然わからないなぁ」
「何がわからないのだ?アンジュ」
「黒狐の王妃が人を食らう理由が今のところ無いんだよね。獅子王を食らう気はあると思うのだけど」
そう、さっきの飛龍も獅子王が苦手な相手だとわかった上で投じてきたと思われる。
「しかし、まどろっこしいなぁ。祈っても全然変わらないし」
聖女が祈っているけど、大きく口を開けた常闇に変化は見られない。だからさぁ、何に祈っているのか知らないけれど、そんなことで常闇が閉じるなんて……ああ!そうか!
「閉じるイメージが違うのか!さっきもじわじわ閉じて行っているなぁと思っていたけど、聖女の魔力で空間の穴を埋めようとしているからだ!それじゃ、深い常闇は閉じないよ」
あの桜色の髪の月の聖女が私の魔力を辺り一帯に蔓延させていた理由だ。私は魔力の使い方を知らないからだと思っていたけど、穴を魔力というパテで埋めるように穴を塞いでいたのだ。
だからキルクスのように本当は大きな常闇が存在しているのに、小さな常闇しかないように偽装されていた。
「どういうことですか?アンジュ」
「神父様!わかったよ!キルクスに巨大な常闇が存在していた理由!」
私は左手で人差し指と親指でOの字をつくって他の指を丸める。これは深い常闇のイメージだ。そこに右手の指をくっつけて乗せた。
「これがキルクスにあった常闇の状態。上に蓋はしてあるけど、奥には深い穴が存在し続けていた。指の隙間が小さな常闇の正体」
「これはもしかして、各所に巨大な常闇が隠されていると言っていますか?」




