323 世界からの攻撃
「え?そこに何かいたのか?……ん?」
驚いているファルが、何かを感じたと同時に攻撃していた緑の鳥が一斉に飛び散った。その中心から四方八方に黒い鎖が放たれる。
これは私が常闇を強引に開いたときと同じ現象だ。
黒い鎖の一つがこちらに向かってくる。ここで私は瞬時に判断しなければならなかった。
神父様の結界を信じてそのまま受け流すか、飛び放たれる黒い鎖の隙間を縫って移動するか。
「くっ!そのまま次の階層に突っ込むから、もし鎖が侵入してきたら、斬り伏せて!」
私はそのまま進むことを決めた。
本当に何がダンジョンだ。ここは既に……いや、私がここに来たいと言ったのだ。私が皆の命を預かっていると言っていい。
私が神父様の結界を移動させると、黒い鎖の動きが変わった。こちらの位置がわかっているように一斉に黒い鎖が向きを変えたのだ。
「うそっ!」
次々と襲いかかってくる黒い鎖。
ルディの影の侵食は元々闇属性だからなのか、効果が見られず、そのまま神父様の結界にぶつかった。
「これは……」
神父様も何か感じたのだろう。焦ったような声が漏れ出ていた。
なんとか神父様の結界で保っているものの、今まで聞いたことがないギシギシという音が結界から聞こえてくる。
次の階層への入口は恐らく、黒いモヤがあった近くのはず、もう少しで黒い穴に近づける。
「アンジュ。次の階層の入口はもう少し先だ」
「え?」
ルディの指摘に私は目を凝らす。しかし、私には黒い色しか見えない。黒い色……もしかして、私だけモヤが見えている所為で入口が認識できていない!
「ごめん。ルディ、私には黒一色しか見えないから、指示して……って!囲まれた!」
先程のファルの攻撃じゃないけど、黒い鎖に周囲を囲まれてしまった。
「アンジュ。そのまま真っすぐだ。地面すれすれを行け」
そのままって、周りを黒い鎖に囲まれてしまっているのに?いや、もう後戻りはできない。だから進むしか無い。
私は私にしか見えない黒い鎖を突っ切るように、結界を進めた。結界を囲む黒い鎖と接触した瞬間、結界が悲鳴を上げるように甲高い音を鳴らす。
ひび割れる結界に私は移動速度を緩めてしまった。
これ以上は結界が保たない。
「アンジュ!進めなさい!」
神父様の言葉に私はルディが示した位置に飛び込むように結界を移動させる。結界が次の階層の階段に移動した瞬間、瓦解し私達は暗闇の階段になげだされてしまった。
「ファルークス!階層に蓋をしなさい!」
神父様はファルに鎖がこちらに侵入しないように蓋をするように指示をだす。あの黒い鎖にとって意味があるかどうかはわからないけど、攻撃で悲鳴を上げさせた聖剣の力なら、対処は可能なはずだ。
「『樹海!』」
ファルは杖を通した聖痕の力で入口をいくつもの木を生やして封鎖した。
私の太陽の聖痕で照らされる空間には木々の間から鎖が出てくる様子はなかったので、ほっとため息を吐き出す。
まさか神父様の空間断絶の結界を壊すなんて予想外だった。
「残念ながら、これ以上は結界を張れそうに無いですね」
……それって神父様の聖痕の力を使いきったってこと!それはヤバ過ぎる。
チートな神父様が戦力除外されてしまうのは、この先で生き残れる可能性が半減する。
「少し休憩しよう」
私はここで休憩を提案した。休憩したからと言って、神父様の聖痕の力が回復することはないとわかっている。
「そうだな」
ルディも賛成してくれた。
はっきり言ってあと四階層は、聖女のみでも進める階層だと私は思っている。なぜなら、一番見せたかったのは恐らく先程の二十五階層。
獅子王の虐殺と黒狐の王妃の死だ。
ここまでくれば、あとは予想は可能だ。しかし予想は予想でしかないけど。
私はルディから離れて、神父様のところに行き、背中に背負っていたリュックを下ろした。
ここには必要になるかもしれないと、用意していたものがある。
そのリュックの中から私は一つの小瓶を取り出した。
「おい!アンジュ!」
それを見たファルが声を上げたけれど、視線で黙っておくように促す。
「神父様。回復薬いります?」
私はニコリと笑って小瓶を差し出した。
「それは毒ですかね?回復薬ですかね?」
「え?」
なんかバレてる?
私、おかしな行動はとっていないはずだけど、もしかして私の後ろでファルが忠告した?
「『聖花の狂乱』は諸刃の剣ですからね。使いようによっては、いつか見たゴブリンの死骸のようになりますよね」
……ゴブリンの死骸……あれか!私が作った無限に収納してしまう財布を分解されたときに出てきたゴブリンの死骸のことか!
ってことは『聖花の狂乱』とは紫の花の聖痕の正式名称ってこと?




