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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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320 まさかそこから干渉してくるとは!

「駄目だ。私には祟神にしか見えない」


 もう黒狐とかモヤの塊というよりも、怪しい怨念が形を成したモノとしか見えなくなっている。

 私の目には正確なことはわからないけど、あのとき獅子王が振り下ろした剣は黒狐の王妃の致命傷になるような傷だったと思う。黒いモヤとしかわからない私の目だったけれど、剣の軌道からすれば、ケモノの首を討ち取ったぐらいの剣筋だった。だから黒い穴から這い出てくる力は残って居ないはずだ。


「アマテラスが言うのなら、そうかも知れねぇな」


 酒吞。私は適当に言っているので、本気に捉えないでほしい。


「人は生きながらにして魔に落ちますからね。器用なものだと思いますよ」


 生きながらにして魔に落ちるか。そう言えば黒狐の王妃も永劫と言うべき寿命なんだろうな……。


 っていうか獅子王!気づいてよ!後ろにヤバイ奴がいるって!

 居ないし!もう姿ないし!これってもうこの階層は終わりってことなのに!祟神がいるし……いや……さっきおかしいと思ったことを私はスルーしてしまっていた。


 そして今の状況!酒吞と茨木には見えているっぽいけど、ファルとルディは私が一人叫んでいることにおかしいと思っているようだし、神父様でさえ私を不可解な視線で見てくる。死の鎖が見えていた神父様が見えてないっておかしい。


 なに?何が起こっているの?


「アンジュ。何一人で焦って、オロオロしているんだ?」


 ルディが心配そうに聞いてきたけど、今の私はそれどころじゃない。


 そもそもだ。ザァーザァーとラジオのチャンネルが合っていないかのような音。まるで言葉がわかるように合わせてたような感じ。


 私と酒吞と茨木の共通点は、異界の者だったということだ。だけど私の魂は異界を知っていても、肉体はこの世界で生まれたものだ。共通点として取り上げるには少々厳しい。あとは……始めから世界に獲物として認識されていたということ。


 私は下を見る。随分前に心臓の辺りから生えていた黒い鎖を引き切ったところをだ。


 引きちぎったために、そこには黒い鎖なんて存在しないはずだ。しかし、私の目には細い鎖が何処かに伸びようと徐々に長くなっていっている姿が目に入ってくる。


 これか!


 思わずルディの腕から飛び降りて、無重力の空間の中、酒吞と茨木のところに赴き確認する。

 私が引きちぎったはずの黒い鎖が彼らの胸から再び生えてきて、それも何処かに伸びて行こうとしている。


「まさか直接干渉してきたなんて!」


 他の人からみれば何もない空間を掴む。酒吞と茨木の黒い鎖は、以前彼らに気が付かれないようにちぎったために適当だった。それがすでに1メル(メートル)程の長さになっていたのだった。


 左手で二本の黒い鎖を掴んで、右手でまだ10セルメル(センチメートル)ほどしか伸びていない黒い鎖を掴んだ。


「『朝日よ全てを浄化しろ(オリエンス・レイ)!』」


 掴んだ細い鎖が太陽(ソール)聖痕(スティグマ)の力で浄化され、灰になり空間の中に溶けていくように消えていく。


 まさか、私達があまりにも関わらないから、強制的に侵食してくるなんて。それも獲物として印を付けた鎖を伝ってだ。

 確かに適当に扱ったから根本は残っていただろうね。しかし世界から切り離したのに再度繋がりを持とうとしてくるなんて、予想外過ぎる!


 私は再び黒いモヤの塊を見る。

 黒い塊から触手が出ているように見えたのはアレは黒い鎖の塊だ。


「アンジュ?何があった?」


 ルディが聞いた来たけど、それに答える時間はない。さっきから黒い塊がこちらを見ているような気がする。私からは目があるようには見えないのだけどね。


「説明する暇が無い!聖剣を抜いて構えて!」


 私の言葉にルディと神父様はすぐさま応えてくれた。


「酒吞。茨木。アレはこっちを見ている?」


 恐らく彼らには何かしらの形では見えているはずだ。人か獣か。


「あ?気味が悪い淀んだ目でこっちを捉えているなぁ」

「生きながら魔に落ちる者は理性のかけらもありませんから、畜生以下ですよ」


 茨木は何か過去にあったのだろうか。酷い言い方をしている。しかし、酒吞が言うようにやはり、私達を認識していた。


「ファル様も聖剣を抜くよ!じゃないと黒い鎖が切れない」

「え?黒い鎖って死の鎖のことか?」

「そう!だから抜く!」


 ファルは『ここで抜いても仕方がないだろう』と言いながら抜いている。

 でも、相手を見くびらないほうがいい。アレは一階層で会ったモノとは別の存在だ。


 ファルの抜かれた鈍色の剣身を見ながら私は口を開く。


「『総花(そうか)』」


 私はファルの聖剣に名を与えた。それは神父様の勇者の剣ではなく、ルディのような闇を纏う剣でもない。


 皆を支える剣。それがファルの剣に与えた名前だった。




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