314 王家の聖痕ってエゲツくない?
「私も同じですね。余裕とは言いませんが、あと6階層なら保ちますよ。それでこの事を確認してきた理由はなにですか?アンジュ」
余裕はない。だけど残りの階層ならいける。これも何かしらの意思が絡んでいるように思えてくる。
ギリギリだけど、行ける。
しかし、直前で何かが起これば、全てが破綻する。
「この幻影は現実だ」
「おや? 幻影は所詮、幻影と言っていたのはアンジュですよ」
過去の幻影に何をしても無駄だとは言ったけれどね。
「最初の十一階層は違和感をワザと出していたのだと思う。これは偽物なのだと。多分ね、星が空から落ちてきた辺りからかな?現実と区別がつかなくなることが起きていたと思うんだよ」
十四階層でのことだ。獣人の少女が、祈るポースをしたことで、人々が逃げ去ったことだ。
普通であればあの状況では、少女が祈りを捧げるポースを取ったとしても、襲っている人々は何のことかわからなかっただろう。
何故なら、メテオを使われると生き残れる人は皆無だからだ。
だけど、ここの幻影は精神に影響を与え、肉体に影響を与えるものだとすると、あそこで現実を見せつけられた可能性がある。
「はぁ。ファル様が火傷を負った。この幻影の炎で」
私は未だに幻影を作り出している上を見上げて言う。四角く切り取られたところから、赤々とした炎と熱気が入り込んで来ている。だけど、一定以上はこちら側にはこない。ここが階層と階層の間だからだろう。
「ファルークスが!どういうことだ!」
「これは参りましたね」
ルディは私に焦ったように聞いてきて、ファルを確認するものの、ただ気を失っているようにしか見えず、困惑しているようだ。そして、神父様は私の言いたいことがわかったのだろう。頭が痛いと言わんばかりに、額に手を当てている。
「それであの十四階層でアンジュは何が起こったのだと思うのですか?」
「多分。ファル様が死んでいた」
「そうですか」
「つっ―――」
神父様はただ私の言葉に相槌を打ち、ルディに至っては言葉が出てこないようだった。
「多分、あの辺りで付き人が死んでおくと、展開的にいいのだろうなっていう私の予想ね。だってさぁ、あの時は思わなかったけど、今考えるとおかしんだよね」
「何がだ?アンジュ?」
少し怒ったような声のルディに聞かれた。きっと私がおかしなことを言っているから怒っているのだろう。
「なぜ、あの人達は一斉に逃げたのかなって。全員が全員麦畑に遮られた少女の姿を確認できたとは思えないし、アレを使われると誰も生き残れない。伝える人がいないのに、誰の指示もなく一斉に逃げるという行動の矛盾があった」
私達は上から様子を見ていて理解していたけど、追い詰めていっていた人たちが一斉に逃げた意味がわからない。
「その逃げた意味が、聖女と王をその場から引き離すという理由とするなら、納得できる。星が降ると危ないから、ここに居てはいけないと。付き人が一人ってことは無いだろうから、付き人の一人を残して皆がその場を離れて、戻ってきたときには降ってくる星の余波をくらって、付き人の一人を失えば、この幻影は現実となる。それからは必死になるだろうなっていう予想」
まぁ、予想でしかない。ここまで来た王と聖女は、きっとこの炎を消すために色々な手段を使って消すだろう。
だってそうしなければ、先には進めない。そして、使える聖痕の力の量は減っていくのだ。
「必死になって聖痕の力を使って、最後には聖女しか生き残らなくなるということがアンジュの考えですか?」
神父様が、この先の予想される展開を口にした。
そう、聖痕の力を使えない王は、ただの人だ。聖女を守ることはできない。最後には聖女をその身を呈して守ることだろう。
なぜなら、王も聖女の聖騎士なのだから。
「そうだね。だから、このダンジョンのヌシは、この先更に力を使わそうとしてくると思う。で、対策を考えるべきだと私は提案するね」
対策と言ってもできることは限られてくる。聖痕の力を使うけれど、それを最小限に抑えなければならないのだ。
「ではリュミエール神父の結界に影をまとわすのはどうだ?」
ルディの聖痕の力ってことか……私はいまいちルディの力のことを知らない。
闇の属性なのだろうなっていうことはわかる。太陽を覆い隠す程の闇の力を持っていることはわかる。だけど、何ができるかは知らない。
「それって、影をまとうとどうなるわけ?」
「影が空間を侵食する」
……王家の聖痕ってエゲツくない?なにそれ?
影って空間侵食しないよ?もう、別物だよね?
そういえば時々ルディの背後の空間が歪んでいるように見えたのが、それってことかぁ。侵食されていたのかぁ。
ん? 神父様の空間断絶の結界とルディの空間侵食の影。合わさるとどうなるんだろう?




