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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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304 崩壊した楽園の中の楽園

 私は神父様の結界ごと移動させて、この時代の王都の中に入った。その光景に目眩がする。

 なにこれ?


「なぁ。俺思ったんだが、人は間違っていなかったと思う」


 力を手に入れて傲慢にも、獣人に反旗を翻した人族の行動に、賛成の意をファルは示した。


「まぁ、人はそう言うだろうな。だが、俺達からすれば、何も違和感はねぇな」


 だけど、酒吞はこの状況が普通だと言う。これが鬼としての在り方だと。でも、彼らは獣人。鬼との在り方とは別だと思う。


「これはどう見るべきでしょうか?」


 眼下に映し出されている光景を神父様は冷たい目で見ている。


「面白ければ、楽しければそれで良い。我々にとって飢饉で人が苦しもうと、関係はありませんから」


 茨木も酒吞と同じく、当たり前の光景のように見ている。


 そう、祭りだ。王都の外は闇が広がり、大地は焼けたように黒く、水は毒水のように淀んでいるというのに、王都の中に一歩入れば、松明の火が燃やされ、獣人たちは楽しげに宴をしていた。


 外から見た王都は薄ぼんやりと王城が浮かび上がっているように見えたのだけど、中は松明の火が満たされて、明るい夜の街がそこにはあった。

 結界だ。王都のみを覆う結界が張られていた。


「地を歩いていなくて良かったな。幻影とわかっていても、殴っていそうだ」


 ルディ。それは体力の無駄だね。でも地面を歩いてなくて良かったのは同感だね。王都の外を見ない、見ようともしない彼らに聖痕の力をぶつけていそうだ。


 しかし、結界が張っていあるとはいえ、食べ物が無く水が腐っているところでは、生きていけないと思……


「聖王……更に、世界の力を使ったというの?」


 そうだ。そうだった。


「太陽の王。その言葉がここから出てきたってこと?」


 王都の一角に菜園ができていた。いや、以前からあったものかもしれない。そこに地上を照らす小さな太陽が存在していた。

 大地は緑に溢れ、湧き出す水は澄んでいる。

 この場に小さな世界が存在していた。


 その場に威厳ある獅子の王の姿があった。聖王自ら、小さな世界の管理をしていた。


「考えようによっては、彼は王として王都にいる民を守っているのでしょうね」


 神父様は王としての在り方の一つの答えだと言った。

 確かに既に国というものの形は崩壊していると言って良い。王が護るべき民は、ここにしか居ない。そう考えれば、聖王の行動も理解できないこともない。

 だけど、その選択肢を王は間違っているとは気がついてはいない。


 なぜなら聖王の表情は、満足した顔をしている。己やっていることに、自信をもっているのだ。全ては民のためだと。


 その時、世界が揺れた。


「地震だ」

「地震ですね」

「王都で地震が?」


 キルクスでは時々地震が起きるから、キルクスで過ごしてた三人は、何が起こったか直ぐに理解した。でもキルクスはそこまで地震は多くない。そう異界の島国と比べて。


「いや、ちょっとおかしくねぇか?」

「おかしな音が混じっていますね」


 おかしい。地震は種類があるけれど、これは地面が揺れているわけじゃない。大気が揺れている。

 私は違和感がある空を見上げた。結界に覆われ、更に聖王が作った楽園の結界に覆われた月が昇らない空にだ。


 暗闇の空に更に深い闇のヒビが入った。世界が壊れる。そう思わせる大きなキズが空に入ったのだ。


「世界の力は既に枯渇していたってことか」


 世界は世界を護る為に、外の力を取り込もうと口を開いたのだろう。これが常闇の始まり。


 でも祭りで騒いている獣人たちは気がついていない。ただ一人菜園の管理をしていた聖王以外は。


 聖王は漆黒の天に向かって手をかざす。まるで空の傷を撫でるように空間に手をすべらせた。


 しかし、何も起こらない。


 聖王は首を傾げ、もう一度、天を撫でる。


 しかし、何も起こらない。


「もう、世界の力は使い切っているんだよ。新たな力は得られない」


 聖王は空が割れた傷を塞ごうとしたのだろう。だけど、世界は人を活かすよりも、世界自身を護ることに決めたのだ。


 そして、世界の隙間から何かが次々と落ちてくる。暗くて何かはわからないけれど、その姿は人でもなく獣人でもないことは明白。


「こうやって魔物がこの世界に現れるようになったのですか」


 神父様が関心しながら空を見上げていた。


 闇しかない空から落ちてくる魔のモノ。

 松明の明かりで煌々と照らされた王都の中で騒いでいる獣人たち。


 ただ一人、空から落ちてくる魔のモノを見て、慌ててどこかに行く聖王。


 これから世界は混沌の闇に呑まれていくのだろう。



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