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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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302 全ての破壊

 細い月が漆黒の空に浮かぶなか、私達は進んでいる。そう、神父様の結界で覆い、私の重力の聖痕で浮かせている。


「なんか一気に進んでないか?」


 ファルが青い顔色をして、うつむいている。正確には地面を見ている。


「植物が枯れていますね。木ですらも枯れていますね」


 神父様が逆さまを向いて、細い月明かりに照らされ見せつけられている世界を見ている。


 植物が枯れ、食べる物が無くなっているのだろう。今度の対象人物は、暗闇に紛れて食べ物を盗もうとしている人族の少年だ。


「はぁ。なんとなく予想がつくよね」


 ダンジョンが見せつけようとしている、光景はおおよそ予想できた。いや、きっと私が想像していることより、酷い光景なのだろう。


「本当に、これを見せつけられたからって、何が起こるのかさっぱりわからない」


「アンジュ。だから、引き返そうと言ったよな」


 私がため息交じりで悪態をついていると、私を昨日から抱えているルディが、ダンジョンから出ようと言う。だけど、ここの最下層には、真実があるはず。それは、この国に聖女がいなければならない本当の理由があるはずだ。


「進むよ。だけどねぇ。イライラと不快感が、つのっているだけで、それが最終目的地で何かが起こるとは思えないのだけど?」


 結局、悪いのは世界の力を使って、自分たちだけが住みやすい場所を作ろうとした、聖王と王妃だ。恐らく人々が魔素という力を取り込んで、魔術を使う前から世界は悲鳴を上げていたはずだ。だけど、それを見て見ないふりをしていた。


「アンジュ。不快感はわかるが、イライラはしないだろう」


 ファルが私の感想がズレていると言ってきた。

 一番苛ついているのは、その部分をこのダンジョンは見せていないということだ。まるで人が悪いことを言いたいかのように、一番始めに子どもの死を見せつけた。

 子どもの死が始まりだと言わんばかりに。


「イライラはこの映像……幻影を作った者に対してだね。だってほら、食べ物を盗もうとしている人の少年が、魔力で火を作ってしまった」


 馬鹿みたいに火の魔術を獣人が住む家に撃ち込んだのだ。そんなもの結末なんて、見なくてもわかる。


「確かに火は恐怖心を煽りますが、この状況では悪手ですね」


 神父様も状況が良くないと言っている。だって、家々の周りは枯れた草がある。村の周りには枯れた畑に枯れた木が植わっている。そんなもの説明しなくてもわかること。


 家々を燃やしている火は枯れた草を燃やし、畑を燃やし人を燃やす。そう、結局食べ物を盗もうとした少年も炎に呑まれた。誰も何も得ることなく、ただ全てが炎に焼かれていく。


「ほら、ムカつくよね。これを見せつける意味がわからない……え?」


 細い月しか無い漆黒の空が光った。まさか!


「また、流れ星か?」


 ルディが月以外は小さな星が散りばめられた暗闇に、複数の大きな光の塊が出現し、それが徐々に大きくなっているのが見える。


「星に願っても何も叶わないっていうのに!」


 ただ空から光の塊が落ちてきて、全てを無に帰すだけ。


 近づいてくる光に文句を言っても仕方がないのだけど、何故星に願うことが無意味だって伝わらないの!……いや、そもそもそれを伝えるべき人が、生き残らないのだ。それだけ残酷な術。


 炎が勢いよく勢力を伸ばしている大地に向かって、次々と空から光の塊が落ちてくる。そして、炎は消えていくものの、全てが光の塊に破壊されていっている。


「なぁ、炎から逃げられていたやつも、巻き込まれていったよな」


 地面の上に立っていればきっと見えなかったと思うけど、私達は結界を浮かせた空間の中にいた。だから、幾人かの獣人が炎から逃れているのは、確認できていたのだ。だけど、メテオは広範囲にわたり、全てを破壊していき、残ったのはただの窪地だけだった。


 そう、平野に突如として現れた大きな窪地。


 その窪地の中央に次の階層へと続く階段が現れた。私は、この現状に頭を抱える。

とても恐ろしいことが、この時代に起こっていたのかもしれない。


「キルクスには無いから、王都の方の地形がそういうものなんだと思っていたのだけど、各地にある池や泉はこうやってできたものじゃないよね」


 王都の周りや周辺地域には、いくつもの池や泉がある。任務で最初に行った第6番目の名を持つセスト湖の大きさは1キロメル(キロメートル)あった。その周りに泉が複数存在している。

 はっきり言って数がありすぎると、思っていた。水を溜めやすい地形なのかと思っていた。


 だけど……だけど……ここで見せつけられた光景は私の考えを否定していた。キルクスがある山脈の南側には無く、王都がある北側には数え切れないほど水が溜まっている窪地が存在している。


「いったいどれだけの獣人が天に願ったっていうの?」


 ただ全てを破壊するだけの星を模した光に。


「どれだけの世界の力を無駄に使ったっていうの?」


 これだけ栄えていた文明が滅びるほど。


「そのツケを私達が払うのはおかしくない?」



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