282 洗脳教育だよね
「アンジュ。この件は高位貴族の者たちは静観する姿勢だ」
「え?なぜ?聖女って子供の頃に憧れるように洗脳教育をされるよね」
私はファルの言葉に、聖女様って素晴らしいという教育をしている国に居て何を言っているんだという視線を向ける。
「アンジュ。言葉が悪いですね。この国には聖女が必要だということを教えているのですよ」
神父様が訂正してきたけど、いやアレは洗脳教育だと思っている。
「一番の問題は彼女の天使の聖痕が光っていない事が高位貴族の者たちに一歩引かせている原因ですね」
「神父様。それは私が悪いと」
太陽の聖痕の力を受けて私の魔力を良いように使える月の聖痕が光っていないことに、今までの月の聖女とは違うのではと、距離をとっているということだと。
「そんなことは言ってはいませんよ。あの者の聖女として高位貴族にお披露目された日に事件があったそうではないですか」
私は思わず視線を逸らす。ドラゴンの肉が欲しさに、思いっきりやらかしたからね。
「なんでも、レッドドラゴンを祈っただけで、消滅させたと」
私がやったことを、彼女がやったと虚偽したことだね。私がやったと目撃者もいたけど、彼女は信じてもらえると思ったのだろう。
「あの場にいたのは、聖女というものを知らない者が集まっていたそうではないですか」
うん。白銀の王様の粛清の所為だね。あと、ルディが聖騎士団で二つ名がつけられるほど暴れたからだね。
……今、思うと王家の二人で高位貴族を減らしていっていない?
「その場にいた者たちは騙せたようですが、その話を聞いた聖女を知るものからすれば、違和感の塊だったそうですよ。力を使う時に聖痕が輝かないのはおかしいのではと」
私の頭の上を見ながら、言わないで欲しい。私は光が強弱している天使の聖痕を手にとり、右目の中に戻す。そして、周りは薄暗く中央に置かれた大きめのランプの光と、鍋に火を掛けている魔導式コンロの明かりのみになった。
「おや?誰もアンジュの聖痕のことは言ってはいませんよ」
「で、太陽の聖女が存在しているのでは説が生まれたって言うんでしょ!」
これは双子の兄弟が言っていたことだ。そして、双子には私が太陽の聖女だってバレバレだった。
「それはあまりにも太陽の聖女が出現周期になっても現れないので、希望的観測が入っていることですよ」
「それで、神父様は、いつから太陽と月と呼ばれるようになったのか知っているの?」
ここが肝心なところだ。元々聖女というのは、一人を指す言葉だった。だけど、二つに分かれてしまったのにはなんの意味があるのか。
「いつからは知りませんよ。しかし、考えればわかることではないですか。生贄として聖女と呼ばれる存在がいると」
「生贄?」
え?どういうこと?……ルディ、お腹を締め付ける力が強くなっているから、緩めて欲しい。
「リュミエール神父。聖女が生贄とはどういうことだ!」
ルディが強い口調で神父様を問いただす。
だから、ルディ。お腹を締めている力を緩めて欲しい。
「おや?シュレインにはその辺りは教えられていないのですか。エリスアメリア・アイレイーリスが私の婚約者の地位から逃げようとした理由ですよ。ただ単に私の婚約者になりたくなかったのであれば、婚約解消という手段があります。しかし、彼女は国外に逃げようとした」
第一王子を利用して帝国に渡ろうとしたことだね。
「アンジュ。私は聖女の運命は悲惨だと言いましたよね」
確かに、キルクスで話をされたときに、神父様から言われた。あれはてっきりR18的なことを強要されるからだと思ったのだけど?
「月の聖女に与えられた運命は、全てこの場の封印の維持の為に生かされ、殺されるのです」
「は?」
あれ?これって妹もどきが言っていたこと?太陽の聖女が居ようが居まいが、月の聖女は幸せにはなれない。
「わかりませんか?己以外の魔力を膨大に与えられるのです。それは身体に何も変調がないと思うのですか?」
「もしかして、大量の魔力に耐えきれなくなる?」
そうか! R18的なことで魔力を与えられるのも、太陽の聖女の膨大な魔力を与えられるのも、月の聖女にとっては同じこと。
いくら無尽蔵に魔力を受け入れられても、少なからず本人の魔力はあるわけだ。大量の異物に本人を守るはずの魔力が少なすぎて、役には立たない。
「だから、与えられる魔力は一人の方がいいのですよ」
一人だけなら、身体の変調も抑えられるということ?だいたいこの国の月の聖女に対する扱いが理解できてきた。
月の聖女はこの国の要。そして、封印の維持をするために膨大な魔力を受け入れなければならない。
ただ何故封印には月の聖女を通じなければならないのかわからない。
しかし、複数の大量の魔力は寿命を縮めるため、一番魔力が多い王族の伴侶になることで、月の聖女の生命を伸ばしていた。
次の聖女が現れるまで、生きてもらわないと駄目だから。




