281 ほとんどが貴族だけど?
「えーっと……なんていうのかな?魔狼の小さいのが家にいたといえばいいのかな?」
「それは駄目だろう」
「アンジュ。いくらアンジュでも魔狼は飼い慣らすことはできないだろ?」
ファルから否定され、ルディから魔狼は飼えないと言われた。わかっているよ。例えるものがなかったの!
「みたいなモノ。私にはよくわからなかったの!」
強引に濁す。前世の記憶があるなんてヤバイ奴に認定されるのは、避けなければならない。
「そのマロと兄弟が仲良くしていたから、これはおかしいと思ったわけ」
「確かに普通は仲良くはできないだろうな」
絶対に変に勘違いされているように思える。私は魔狼もどきと仲良くできたけど、普通は無理だという感じに。
「アンジュ様はその犬を可愛がっておられたのですね」
茨木がそう言って、私に大きめのカップに入ったお茶を渡してくれた。
うん。茨木と酒吞は私が言った“犬”を理解しているため、話が通じそうだ。
「そうなんだけどね。兄弟の態度がおかしくて、こいつ偽物だってピンときて、色々聞き出していたわけなの」
「わかるぞ、アマテラス。嘘くせーんだよ。まだ、妖狐のやつらの方が上手く化けるよな」
「ふふふっ。本当にお粗末なものでしたね」
私と酒吞と茨木があんなのに騙されることなんてないという態度をとっていると、ルディの隣に座っているファルの背中がだんだんと丸まっているように見える。私からはルディの様子がわからないけれど、ルディは無言のまま反応を示さない。
「それでアンジュは何を聞いたのですか?」
幻覚に惑わされながらも、第一階層を通り抜けた神父様に視線を向けた。神父様の手に血が滲んでいることは、見なかったことにしよう。きっと指摘されるのは嫌だろうから。
「聖女とは何かだね。ねぇ、なぜ聖女の彼女を、聖女として在るように強要しなかったわけ?」
神父様は月の聖女の役目を知っていたはず。そして、月の聖女は約20年周期で存在するとなれば、常に月の聖女は王城に存在し、この場に封じ込めている何かを押さえる役目を担わされている。
しかし、ルディの母親が死んでからはこの場を封じる者は存在していない。普通であれば、見つけしだい役目を押し付けようとするはずだ。
「それはあの者を王都に迎える際に、問題になったことではないのでしょうか?」
神父様はそのことには携わってはいないと、ルディに視線を向ける。言われてみればそうだ。
「ああ、一番は身分がないことだ」
ん?それは聞いたかも?
普通、聖女という者は貴族に現れると聞いた。だから、貴族預かりではなく、聖騎士団で面倒を見るということになった。
「それから、アンジュの耳には入れてはいないが、聖女の役目は与えている」
「え?そうなの?」
R18的なことをやっているの!……言われてみれば、彼女の部屋はほとんどがベッドに占領されていると、言っていい部屋だった。そして、見張りがいる部屋から抜け出していたということは、見張りを誘惑していたということ!
「で、この場の封印の維持はできているということ?」
すると、金髪の二人の首が横に振られ、背後からはため息が漏れ聞こえてきた。
「アレは溜めた先から使ってしまい、封印の維持するほどの魔力を得てはいないのですよ」
神父様の言葉に首を傾げてしまう。封印を維持するほどの力を得ていない?そもそも妹がやっていたゲームはイケメンとイチャイチャするゲームだったはず。イチャイチャしているのに、力を得ていない?
「ん?その話はあれか?黒狐が言っていたヤローを押し倒すものの、ねむr━━━━━━」
何故かルディから耳を塞がれてしまった。
しかし、酒吞の言葉から予想ができた。恐らく彼女は最後までしていないということなのだろう。どの程度かはわからないけれど、相手を押し倒して魔力を得れば、眠りの魔術を使って相手を眠らせてしまって、肝心な封印を抑え込むほどの魔力を得ていないということ。
おお!頭いい!
「そうなんだね。上手く行っていないと」
私はルディの手を外しながら言う。
「でも、聖騎士が素人の魔術に掛かるってどういうこと?それって問題じゃない?」
だって聖女の彼女は、何も訓練を受けていない素人だ。いや、転生者で知識はあるだろうけど、聖騎士ならデバフ的な行動を阻害する魔術に、簡単にかかるのは問題だと思う。
「ああ、それな。聖女の元に行くのが大体、聖女とつながりを持ちたい貴族の息子が多いからだな」
ファルの説明にますます首を傾げる。いや、この聖騎士団の四分の三が貴族出身じゃなかった?平民出身で騎士以上はキルクス出身者のみで占められている。あとは従騎士と見習い騎士。
ああ、問題児の第13部隊のミレーは帝国の貴族だけど、ティオとシャールは例外だろう。だから、第13部隊に配属された。
「ほとんどが貴族だけど?」




