279 教皇の血筋
「はぁ、なぜルディもファルも魔道ランプを無くしているのかなぁ。だから私は言ったよね。手持ちなのって」
私はルディに抱えられて暗闇の中を進んでいる。私の魔道ランプはファルが持っているものの、その明かりだけでは3人分の視界を補うことはできず、私の頭上には天使の聖痕を掲げたままだ。
「手持ちじゃない魔道ランプはない」
……手持ち以外がないってことは、無くす率が高いって分かっていないってことだよね。誰が気づいて作ってよ。
「私は以前持っていたカンテラランプ型の魔道ランプは腰に下げるように改造したけど?」
「アンジュ。夜に教会を抜けることは禁止だったはずだが?夜に外に出て何をしていたんだ?」
ルディがまるで私が夜中に教会を抜け出して遊んでいるように言ってきた。そんなことできるはずはない。
「神父様の目を盗んで夜中に抜け出すなんてできるはずはないよね。聖水の儀式に必要だと思ったから、前もって買っていたの」
教会に売られてきた子どもたちの最後のお勤めの儀式のことだ。
「両手に抱える大きさの荷物を運ばせられることは分かっていたからね、魔道ランプは手に持つことはできないから、改造したの」
「ああ、あれな。そうか。腰に下げるぐらいなら、ベルトに引っ掛ける感じでもいけるのか」
ファルは納得して、剣帯に引っ掛ける仕草をしている。しかし、聖水の儀式が”あれ”で済まされるということは、ファルはその儀式で何が行われているか知っていたということか。
「聖水の儀式って”あれ”で済まされる感じなの?私達の中では誰も帰ってこないから、どう生き足掻くか必死だったのだけど?」
「アンジュ。あの儀式にはからくりがあるんだ」
私の怒り混じりの言葉にルディが答えてくれた。
「からくり?」
「教会から居なくなった者たちは死んだことにされ、リュミエール神父の手足となって動く特殊部隊に配属されるんだ」
「は?なに?その恐ろしい部隊」
いや、心当たりはある。私を常闇に放り込んだ冒険者まがいの人物のことだ。時々、私の監視に付いていた人物。
「現場で働くことが難しい者は教会のシスターや下男として教会の仕事について、それ以外は国中に散って、情報収集やリュミエール神父からの命令を実行したりしている」
確かに、それなりの手練れが、神父様の周りにいるとは思っていたけど、まさか教会での脱落者だったとは……これは実質国を牛耳って言えるのは神父様なのでは?
「王族だとしても、武力持ちすぎじゃない?」
「それは俺たち兄弟が不甲斐ないからだ。本当であれば、兄上が毒を盛られた時、俺が王に立たなければならなかった」
白銀の王様毒殺事件のことだね。確かに順番からいけば、ルディが王に立つべきだろう。
「しかし、聖騎士団にいた俺は貴族から支持を得られない状況だった」
「黒だから?」
「それもあるが、大した実力もないのに箔付けだけに大将校になった者や将校になった者を殺したからな。それも次期当主と見込まれていた者が多かったのも運がなかった」
これはルディの痛い二つ名の原因となった事件だ。次期当主に内定していた人をヤッてしまったとなると、貴族たちもルディを王としては支持したくないだろうね。
「だから、リュミエール神父が俺たちの代わりに、国を影から支えてくれていたんだ」
で、恐ろしい部隊を作り上げたと。
「ん?神父様って今、王都にずっといるけどいいの?以前、聖騎士団にくることができないとヒュー様とアスト様が言っていたけど?」
確か、私に秘密の通路の鍵になる青い指輪を強引にはめて言った時に双子が言っていた。
「その件は兄上が動いているからだ」
白銀の王様が?貴族嫌いの王様が?嬉々として悪巧みをしてそうな王様が動いている。
「因みに何をしたか聞いていいかな?」
「先日、第2部隊長の交代があっただろう?」
いや知らないよ。私にそんな情報はもたらされていない。
「イグレシア家を根絶やしにした。教皇の血筋は邪魔でしかなかったからな」
……その話何処かで聞いた気がする『教皇の血を根絶やしにしたかったなぁ』と白銀の王様の声が私の頭の中に再生されている。
王様、自ら動いちゃったわけ?もしかして、いつもニコニコとしているけど、めっちゃ強かったりする?いや、その可能性の方が高い。ルディの兄だし、神父様の甥だし、空を飛ぶのが普通みたいな言い方していたし、きっとチートなんだろう。
「教会のトップだった教皇の血を排除することによって、フリーデンハイドも動きやすくなったしな、聖騎士団も風通しが良くなった」
あれ?なんでそこに侍従が関係するのだろう?いや、後に大将校の地位を与えられる人物だ。それはわかるけど、何が関係するのか……もしかして……。
「侍従の父親って、その教皇っていう人?」
私の問いにルディは胡散臭い笑顔で答えた。
ああ、侍従はそのイグレなんとか家の傀儡にされる可能性があったから、早々に王族から籍を抜いたってことか。




