266 貴族とは見た目が重視です
見た目?何もおかしなところはない。
白い隊服はきっちりと着こなしている。
体格は武人というよりも、バランスを考えて身体を作っているように思える。ルディと剣を打ち合っても体幹がいいことが見て取れる。うん。流石、隊長まで上り詰めたことだけはあるという感じ。どこもおかしくはない。
「騎士としても剣士としても腕はいいと思います」
「違います。見た目ですよ」
見た目かぁ。
紫と青が混じった髪の色だね。そして、見る角度によって光っているように見える金色の瞳。あっ!わかった!
「暁の空の色だね!夜が明ける太陽が昇る前の空。そして、東の空に輝く一等星。だから聖剣がその色なんだね。『暁の明星』!」
すると、私の言葉が聞こえていたらしい、第12部隊長さんの剣筋がぶれた。その剣を弾いてルディがトドメをさすのかと思ったら、何故かこちらに視線を向けて、こちらにやってくる。
なんか、瞳孔が開いた目で見られている気がする。私は魔王様を怒らすことは言っていない。……はず。
「シスター・マリア。アンジュに何を言わせているのですか?」
背後の風景が歪んだ魔王様が降臨されてしまった。何が魔王様の機嫌を損ねてしまったのだろう。
「アンジュは無自覚に人の心を掴んでしまうことを、自覚させようと思ったのですが、思った以上の副産物が発現してしまいましたね」
思った以上の副産物?それは目の前の激オコ魔王様のことだろうか。うん。これは私も何が魔王様の琴線に触れたのかさっぱりわからない。
「くっくっくっ!おい、茨木。アマテラスはまた名付けをしたな」
「このように、いくつも名付けをされるとは流石アンジュ様ですね」
背後の二人の鬼が、またしても私がやらかしたと指摘してきた。私が何をしたって?
「聖剣の覚醒ですね。名は聖剣の本質を現します。ヴァルトルクス・アンドレイヤー。貴方のことは私の耳にも多少は入っていましたよ。破壊のヴァルトルクス」
うわぁ。第12部隊長さんの二つ名がとても痛々しい。中二病を患って、俺かっこいいだろうという匂いを醸している。しかし、これは聖痕の力のことを言っているのだろう。
第12部隊長さんは痛々しい名前を言われた瞬間、肩をピクリと動かした。
「さぞや、アンドレイヤー公爵家では、腫れ物扱いされてきたでしょう」
シスター・マリアがズバズバと言っているけど、これは公爵家として認められなかったと言っている?
「そんな貴方からすれば、偏見のないアンジュの言葉は甘美なものかもしれませんが、本人は何も考えてはいません」
それは私が馬鹿だと言っています?シスター・マリア。
「それは理解しています。将校ロゼが言うには、食べ物とお金のことしか頭にないと……」
ロゼ!そんなことはないよ!色々考えているんだからね!それに、そんなことを自分の上官に報告しなくてもいいと思う。
「はい。そのとおりです」
「シスター・マリア。それ酷くない?」
これは抗議をしておかないといけない。私は考えなしじゃないよ。
「アンジュ。貴族とは見た目が重視です」
またしても、私の言葉の答えとしては、外れた言葉が返ってきた。うん。シスター・マリアの質問と答えが微妙にズレているのは貴族的な考えが入っていたからだと、ここで理解したよ。
だからロゼやリザ姉が理不尽なことで怒られると、言っていたのか。
「良いですか!我が姉が赤銅の髪ながら王太子妃になれたのは、リュミエール神父の後押しがあったからです。でなければ、コルドアール公爵家の者が王太子妃になっていたでしょうから」
シスター・マリア。時々、神父様の地雷を踏むのはワザとなのだろうか。これ、神父様がその聖女の公爵令嬢が好きだったとバラしているよね。
「この者の公爵家での扱いは酷いものだったと聞き及んでいます。なんせ、貴族にとってあってはならない色を持って生まれてきたのです」
これは本人を目の前にして言って良い言葉ではないと思う。ルディの時も思ったけれど、貴族って本当に馬鹿だ。
何が銀髪だ。何が聖女の色だ。
「こう言うと、アンジュは本気で怒りだしますよね」
そう言って、シスター・マリアは再び聖母のような慈愛に溢れた笑顔を浮かべる。
「アンジュはそれでいいのです。何者にも囚われずに進めばいいのです。しかし、周りの男どもがそれを邪魔をしてはいけません!シュレイン。なんです?アンジュがヴァルトルクスを褒めたぐらいで、機嫌を損ねて、子供ですか?」
シスター・マリア!もっとルディに言って欲しい!
次回土曜日です




