264 対象は全ての人だよね
「光の矢よ」
私は魔力で光の矢を作る。決して神父様の無言の視線から逃れたいわけじゃない。
「天風に乗りて」
私は右手を真上に向けて、矢を射るように左手を下に引く。標的はこの敷地内のすべてだ。
「標的に天誅を『一矢当千』!」
そうして、左手を広げ光の矢を解き放った。空に向かって飛んでいく一本の光の矢。再び左手を握り、光の矢を作り撃ち放つ。そして、再び……。
「ちょっと待て!アンジュ!どれぐらい撃つ気だ!」
ファルが焦ったように声を掛けてきた。さっきまで笑っていたというのにだ。
「え?」
そうして、また一本の矢を撃ち放った。だって、この聖騎士団の敷地は4キロメル。その距離をくまなくお仕置きをするには一つの矢だけでは足りないと思う。
「あと2本」
と言いながら、一矢を撃ち。最後の光の矢を作り空へと放った。
「その撃ち方だと、ここも被害に遭うだろうが!」
本当にファルは何を言っているのだろう。神父様はくまなくと言ったんだよ。
「お仕置き対象はこの聖騎士団にいる全ての人だよね」
「は?」
ファルが固まってしまった。多分侍従もお仕置き対象に含まれていると思う。
「や……やべぇ。第5波まで……来るやつ……だ」
「誰か結界を……」
「無理で……す……まともに……動け…ないです」
死屍累々がイモムシのように、もそもそ動いて、光の矢から逃れようとしているけれど、鬼の二人にコテンパにやられて、まだ回復できていないらしい。神父様が相手にしていた隊長クラスはピクリとも動いていない。手加減をされなかったようだ。
「大丈夫だよ。ファル様。これはただの魔力の光だからね」
そう言って私は光の矢を一本作る。
「だから、建物の中には届かない。強い闇の中では光は存在できない。魔力がないモノには通じない」
このお仕置きの矢には弱点がある。ワザとそうしている。贖う者がいるのであれば、逃れられるようにだ。
「それ絶対に嘘だろうが!普通の結界だと貫通して結界が消え去って、被害を受けていたの知っているんだぞ」
ファルは馬鹿だった。当たり前のことを言って文句を口にしている。
「ファルークス。結界も魔力で構築されていますよ」
神父様が呆れたようにため息を吐きながら言っている。その隣ではシスター・マリアがランスの柄を地面に打ち付けている。どうやらファルはシスター・マリアから直接お仕置きされることが決定されたようだ。
「アンジュの光の矢は、魔力のある者の魔脈の遮断するという仕様です。ここまで言えば、どうすれば対処できるかわかりますよね」
そう、この矢の影響を受けないようにするには、常にあふれるように流れている魔力を内側に押し込めればいい。魔力操作が出来ていれば簡単なこと。因みに強固な結界で遮蔽ができるのは、光の矢が遮断する魔力より強固な魔力で構築されているので、結界が形を保っているだけという理由だ。
「魔力がない遮蔽物に身を隠す!」
うん。だからそれは私が初めから神父様に言っているし。建物内には光の矢は届かないと。
「って訓練場にそんな遮蔽物はないじゃないか!」
ファル。ひとりツッコミが上手くなったね。
「魔力ではなく、聖痕の力で覆えばいいのではないのか?」
第12部隊長さんが自分なりに考えた答えを口にした。これも正解。聖痕の力は魔力ではなくて、世界の力だから光の矢を遮ることができる。
「第12部隊長さん!それも正解です!」
私は親指をグッと立てる。ファルより偉い!
……あっ。なんだか怪しい気配が背後から……っと思った瞬間。辺りが光に満たされた。正確には太陽の光に混じって上空を埋め尽くす光の矢。それが幾重にも重なって落ちてくるのがわかる。
死屍累々から悲痛な叫び声が上がっている。大丈夫。ここは地獄ではなく、聖騎士団の敷地の中だ。ただ、二時間ぐらい地面に寝そべっていれば、回復できる。まぁ、少々冷えるかもしれないけど、今日は晴れているので、凍え死ぬことはないよ。
すると、後ろに引き寄せられて、ルディに抱えられてしまった。いや、私が作った魔術だから、私には通じないよ。
そのルディはいつの間にか左手で黒い傘を差していた。これはルディの聖痕で傘を模したのだろう。
水の雨が降り続いていたと思ったら、光の雨に降られるなんて、運が悪いね。
そして、魔力の光に満たされた世界は音が消え、何もかもが光に飲み込まれてしまった。
「アンジュと二人だけになってしまったかのようだ」
ルディがそんなことを、ぽそりと漏らした。それはそれで怖いね。しかし、あと、2波で終わり。
「本当に、そうなってしまえばいい。それに、この機にヴァルトルクスをヤるか」
だから、怖いよ。
で、何故に第12部隊長さんが標的になっているわけ!殺すのは駄目だよー!
次回土曜日です




