261 見習い騎士 対 騎士
私の目の前は訓練というより戦場と化してした。原因はやはり酒吞の参戦だ。
そして、神父様の一言だ。
「カインレイザ。メリクリウス。あのモノを止めなさい」
ここに来て早々にルディに話掛けてきた第4部隊長と第4副部隊長に神父様が命令したのだ。
その命令に瞬時に応える第4部隊長。なんだか必死感が見て取れる。
「アレって誰だ?」
「さぁ。キルクスの者ではないでしょう。ですが、強い」
「それはわかっている。グランツ!結界を張れ!」
第4部隊と第4副部隊長は瞬時に酒吞の強さを理解し、他の人の参戦を促した。
「俺、第6部隊なんだが?」
なんだか、やる気のなさそうな人の声が聞こえた。
「そんなもの関係あるか!」
うん。第4部隊長は凄く必死だ。
そこに私の背後からの冷気が漂ってきたことで、もう一人が動いたことがわかった。
「一対多数とは卑怯ですね」
そう茨木だ。冷笑を浮かべた茨木が、第4部隊長に大太刀を振るう酒吞の後を追うように駆けていく。
いや、恐らく一対多数でも酒吞なら余裕だと思うけれど?これは茨木も暇だったのかもしれない。
「ディネーロ!参戦しろ」
「いや、俺は第9部隊なんだが?」
「ディネーロ!生きるか死ぬかだ。ここで揃っているのは第12と第13だけだ!俺たちは同類だと言うことを忘れるな」
そこまでのことにはならないと思う。シスター・マリアからボコボコにされるだけだろうから。
本当に第4部隊長が必死すぎる。しかし、その言葉が引き金だったのだろう。神父様の圧に耐えていた人たちが一斉に剣を抜いた。
「くくくっ。いい殺気だ」
100人程の人達から剣を向けられているというのに、酒吞は楽しそうに結界に弾かれた大太刀を引いた。
「しかし、アンジュ様の足元にも及びませんね」
笑っている酒吞の代わりに茨木が刀を振るった。それは結界をもろともせず、全てを凍らせていく。辺り一帯を氷の世界に変えて行くのだ。反応が遅れた者たちは足が氷漬けにされて、動けなくなっている。
「おい!シュレイン!これで見習い騎士っておかしいだろう!」
氷の世界になり、その力の文句をルディに言っているけど、鬼だからね。騎士にすると問題が出てくるよね。
「おかしくはないぞ。ここに来てまだ数ヶ月だからな」
酒吞はそう言って氷の世界を灼熱の炎の世界に変えていく。
「確か、従騎士に昇級するには試験を受けなければならないとか?」
茨木はこの短期間に、人の世界に準じるために色々勉強しているようだ。そして、再び氷の世界に変えていく。
「ああ、これが正反対の彼らの戦い方なんだね」
私も攻撃されたけど、そのときは鬼という存在に衝撃を受けて、そこまで彼らの戦い方を観察していなかった。その後で魔王様との追いかけっ子が始まってしまったのもあるけれど、第三者として見ると鬼の二人の息のあった戦い方に魅入いってしまう。
「寒いと熱い。極寒と灼熱。力強さと素早さ、その差に反応が遅れている」
「極度の温度差は感覚を鈍らせますからね。それに対応できるのはほんの一握りの者たちだけでしょうね」
恐らく胡散臭い笑顔で言っているだろうルディからの言葉だ。
「対人戦を何度も行ってきたと思われる彼らは、人という者の欠点をよく理解しています」
鬼だからね。その鬼の二人は動けなくなっている者たちを早々に場外に排除して、彼らの戦いについていける数人のみが残っているのだ。
「リザネイエ!ロゼ!手伝え!」
静観を決め込んでいる第12部隊のリザ姉とロゼを引き込むつもりらしい。
「嫌だわ。その人たちアンジュちゃんの下僕だもの」
リザ姉。彼らは下僕じゃないからね。彼らを元の世界に還せなかったのだから仕方がないと、居場所を与えただけにすぎない。
「第4部隊長。彼らはアンジュについていけるぐらい強いから無理」
リザ姉とロゼは早々に離脱する意志を示した。そこに神父様の声が二人に追い打ちを掛ける。
「リザネイエ。ロゼ。言いましたよね。既に始まっていますよ」
そのように二人に言う神父様は、3人の隊長を相手にして余裕で攻撃を返している。
「いやぁぁぁぁ!生きるか死ぬかってことじゃない!」
「はぁ。まさかシスター・マリアではなくて、彼らの相手をするのって厳しいわ」
大げさに騒いているロゼは広範囲に結界を展開して、木から作られた弓を構えた。矢も弦もない弓だ。そして、リザ姉は槍を構える。
「おっ!そいつを出してくるのか」
「神殺しですね」
いや、二人は神を殺していない。確かに聖剣は神を傷つけることはできたけど、結局世界に食われたので、ただの聖剣だ。形は剣ではないけれどね。
「おい、何故剣じゃないんだ!」
「世界は私のことをわかってくれているってことなんですよ!第4部隊長!」
剣がそこまで得意ではないロゼが矢を放った。その放たれた矢は聖魔術で構成されているようだ。矢は空を切り酒吞に向かっていくも、手前で茨木に叩き落される。
「まだまだ未熟ですね。アンジュ様の足元にもおよびません」
いや、私は弓使いじゃないからね。
「そうだな。あの一矢を幾重にも分けなければ、空間を貫いたんじゃないのか?」
光の矢のことを言っている?あれはそもそもお仕置き用の技だから、そんな威力はない。
「矢で空間に貼り付けるヤツがあったな」
「ありましたね」
「アンジュと比べないでよね!空間にどうやったら矢が刺さるか理解できないもの!」
対戦相手の言葉に酒吞と茨木は振り返って私を見た。何?その視線は?




