250 聖女の物語の事実は……
「さて、王都に帰る前に話すことがあります」
自分たちの持ってきた保存食を調理してもらった朝食を食べ終わったところで、神父様が皆に向けて声を掛けてきた。
因みに朝食はよくわならないごった煮のスープ。美味しいというよりもお腹を満たせばいいだろうという感じだった。まぁ、いつものご飯だったということだね。
そして、神父様がそう話し出した途端、食後の雑談をしていた皆がその場に立ち上がって、神父様の方に向いた。
いや、酒呑は全然足りないとか酒が飲みたいとブチブチと文句を言っており、その向かい側で茨木が優雅に食後のお茶を嗜んでいる。
その二人以外が立ち上がったのだ。ということは第12部隊長までもが、皆に倣ったということ。私が知らない間に何かがあったのだろうか。
因みにここには双子の兄弟の姿は無かった。昨晩遅くに王都に戻ったらしい。無理言って違う部隊から来てもらったので、それは仕方がないことだ。
「まずは、今回のことを受けて制裁……訓練の見直しを行うことになりました」
神父様。わざと間違えて言い直したよね。制裁ということは、訓練という名の懲罰が与えられることが決定したということだ。
昨日、ルディと神父様が二人して姿を消したときに、恐らく団長と侍従との話し合いが行われたのだと思う。
いや、違う。基本的に団長は神父様に逆らわないだろう。そして侍従も王族であり、元 大将校の神父様の言葉に意見を言うこともないだろう。
ということは、神父様がこの様な方針で行くと決めたことに、実質聖騎士団のトップである団長が頷いただけだと思われる。
……聖騎士団が神父様に乗っ取られていないのだろうか。これは由々しき事態。
「あまりにも体たらくに、本当にヘドが出ますね。第9部隊の者たちもそうでしたし、第1部隊と第7部隊が何に手こずっているのかと思えば、異形の外見に惑わされていたとは、聖騎士という者をなんと心得ているのでしょうかね」
神父様から刺々しい言葉が出てくるけど、ここに居る人達だけに言っても仕方がないと思う。それは全部隊を集めて言って欲しい。
「200年に一度の“宴”が始まったばかりにも関わらず、一部隊だけでは何も解決されない現状に、憤りしか感じませんね。一年の歳月を戦い抜けると思っているのですか?」
ん?一年?どういうことだろう?
私は右手をサッと上げる。
「なんですか。アンジュ。まだ、話の途中ですよ」
「質問です。一年とはどういうことですか?一部隊だけで解決できないと言いましたが、第13部隊だけで解決しましたよ」
「二つ目は質問ではありませんね。まぁ、いいでしょう。一年というのは記録された200年ごとの“宴”の期間のことです」
あれ?神父様はおかしなことを言っている。一年間しか異形が顕れないと言っている?なら、あの話は何だったの?
「神父様。それはおかしくはないですか?200年前の聖女様……メリア……なんとかっていう「メリアローズです」そう!その人は8年間聖女としていたはず。一年で終わるのなら、その人は死ななくても良かったと思う」
200年前の太陽の聖女。彼女は魔力の搾取され続けたことにより、死を迎えた人だ。
「実際には聖女メリアローズが15歳から16歳の間に異形が国中に溢れ、聖騎士と共に戦いました。ですが、人々の脅威は異形だけですか?その後も世界の穴を封じつつ魔物を屠っていったのです。そもそもですね。『聖女とドラゴン』の絵本にしてもドラゴンは異形ではなく、普通のドラゴンです。あの絵本には常闇から現れたとあるますが、実際は繁殖期に入ったドラゴンが街の近くに居座ったため、討伐したものです」
なんと!物語と史実が違っていた!
いや、討伐したことに変わりはないけれど、物語の話をふくらませるために、脚色がされていたという事実!
言われてみれば、聖女にまつわる討伐の話に異形の物語はない。
『聖女と不死の王』
『聖女と闇の狼』
『聖女と嵐を呼ぶ鳥』
妖怪ではなくこの世界に存在する魔物の話だということに、今更気が付かされた。ということは、異形と戦い常闇を封じていくというのは建前で、本来聖女という存在は死ぬまで扱き使われるということだ。
はぁ、これは双子の聖女の兄も怒り狂い、200年経ってもその怒りが消えないことに、改めて納得できた。
「それから一部隊で解決できないというのは、第13部隊を除いてという意味ですよ。そもそも、異形に対処しているのはアンジュ自身です。私はそこに問題があると言っているのですよ」
あ……そもそも聖女は戦う存在ではなく、聖女の剣と盾は聖騎士が担うため、本来は戦うべきは聖騎士と神父様は言いたいのか。だけど、私がちょっかいを出すから駄目だと……結局、私も怒られている?
「聖女より弱い聖騎士は必要ですか」




