243 聖騎士の聖剣
「これから常闇を押し広げるから、二人共もっと離れた場所に待機して欲しい」
玄武が復活する前に、龍神が復活する前に常闇に落とし込めておきたい。恐らく神という存在と戦っても勝つことは出来ないだろう。
あの再生能力には敵わない。それが二柱となると、どちらかを黙らして、もう片方を攻撃している間に復活する時間を与えていることになるのだ。ルディと神父様ぐらいの力を持った人たちが幾人もいるのであれば、勝つことも可能かもしれないけれど、かなり厳しい戦場になることにはかわりない。
「こじ開けられたときの黒い鎖は見えたから避けるのは容易だ。それよりも、アンジュに手が届かないというのが一番問題だ」
ルディ。それは私のおかしな行動を止めないと被害が大きくなると、匂わせているの?私はまだ本気じゃないから、そこまで被害は大きくはならない……はず。
「そうですよ。聖騎士は聖女の為に存在するのです。我々はアンジュの聖騎士ですからね」
……神父。我々って何?神父様と第12部隊長は騙されるような感じで聖騎士と認めたけれど、ルディはそこには入ってはいないよ。
しかし、ここで押し問答する時間はないので、二人の逸脱した力を信じるしかないのだろう。
「常闇を押し広げるけど、皆には離れているように伝えてくれたんだよね」
「ええ、ここで常闇に呑まれる騎士なら居ないほうがいいでしょう」
時々神父様は酷いことを言う。けれど、この言葉の中には騎士の背負う命は自分だけではないと言っているのだ。
騎士は引くことは許されない。騎士が引くことで危険にさらされるのはそこに住む民たちであり、その民たちに住まう土地を捨てて逃げろというのは、最後の手段であり騎士たちがそこを死地として決めた場合のみに行われる選択肢だった。
「離れてくれているのならいいよ」
そう言って私は世界が自ら開けた穴を一気に押し広げた。距離にすれば10キロメル。これほどの大きさがあれば、500メルはあるだろう玄武も堕ちていくと思う。
そして慟哭のような世界の悲鳴が突き抜ける。思わず両耳を塞ぎ目は黒き闇を凝視した。
「来る」
思わず出てしまった言葉と同時に足掻くように黒き闇から飛び出てきた黒い鎖。悲鳴と鎖が雨の世界を満たし、その中を飛び交う鳥のように私達は鎖を避けていく。
世界の闇に満たされた異様な空間。その闇の中に異形を落とし込め、閉じるべく渦を作っていく。
『ギャアァァァァァ』という悲鳴と『ギギギギギギギギ』という世界が軋む音が重なり、徐々に眼下の黒い闇が動きを見せる。
そこの闇から飛び出て来るモノがいた。黒い鎖に巻かれ鎖を引きちぎる勢いでこちらに向かって来たものが。
「やはりあれぐらいでは、致命傷になりませんでしたね」
「リュミエール神父。手を抜いたのではないのですか」
私を標的にしたように向かってきた呪われた龍神と私の間にルディと神父様が入ってきて何か言っているけれど。神父様の本気は見たこと無いけれど、なんだか恐ろしい気がするから、できたら止めて欲しい。
「しかし、シュレイン。この木の枝で力を乗せると危険ですね」
まぁ、所詮木の枝なので、簡単に壊れてしまって、次の一撃を打てない状態になるから、それは危険だろうね。
「それはわかっていますが、それも承知の上」
そう言ってルディはただの木の枝……いや、漆黒の剣身だけの存在を手に持ち、黒い鎖の塊に斬りつけた。世界の慟哭に交じる悲鳴を上げながら切口から黒い煙を上げる異形。
「これはあとで問題にならないと良いですね」
神父様はまばゆく光る剣身を横一線に振るい首と思われるところを斬りつける。切口からキラキラと何やらエフェクトが出ているけど、神父様が伝説の剣みたいなおかしな剣を手にしてしまった。これは鬼に金棒並みに恐ろしいことだ。
私が一番危険だと思っている人たちに、とても危険な武器が与えられてしまった。二人で普通に神殺ししているよ。……いや、呪われた龍神は落ちていく首と思われる鎖を持ち、何十という水の刃を作り出している。
その刃が次々と放たれるが、ルディと神父様は弾き返しているも、二人を抜けてきた攻撃は勿論私に向かってきた。しかし、私は常闇を動かすことに手を取られているので避けるしか出来ない。しかし、玄武が重すぎるのか中々常闇が動かない。
私は天使の聖痕の力を強める。すると曇天の空にも関わらず世界は光に満たされた。辺りを眩く照らす天使の聖痕。
それに反するように常闇の色は濃く深くなった気がする。
強い光に戸惑ったのか一瞬呪われた龍神の動きが止まった。その隙を見逃すルディと神父様ではないので、ここぞと言わんばかりに、闇の剣と光の剣が漆黒の鎖の塊を貫いた。
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
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その所為で、ストックが……( ゜∀゜)・∵. グハッ!!
すみません。色々間に合わなかったら、白雲が馬鹿をしていた所為です。
ご興味とお時間があればよろしくお願いします。




